あの松岡修造さんに創業者に必要な「伝える力」について伺った。起業家にとって伝える力は顧客を獲得し、仲間を集める上では欠かせない力だ。松岡修造さんは「スポーツ選手」「熱い男」のイメージが強いが、「修造チャレンジ」で錦織圭選手など多くの有望なテニス選手を輩出している指導者であり、スポーツキャスターやレポーター歴も長く「伝える」プロである。今回、松岡修造さんが『伝わる!修造トーク』を出版した。松岡修造さんの「伝える力」と創業者へのメッセージをお届けする。

松岡修造さんに聞く、起業家に必要な「伝える力」を伸ばすコツ

松岡 修造(まつおか・しゅうぞう)
日本男子テニス界の第一人者として、ウィンブルドンベスト8など世界の大舞台で活躍。1998年にプロツアーを卒業し、同時にテニス活性化プロジェクト「修造チャレンジ」を設立する。現在は世界を目指すジュニア選手を指導するほか、テレビ朝日『報道ステーション』、オリンピック、世界水泳、フィギュアスケートグランプリシリーズなどでスポーツキャスターを務める。フジテレビ『くいしん坊!万才』のレポーターは今年で14年目を迎えるなど、幅広い分野で活躍中。

ー著書『伝わる!修造トーク』の中で、松岡さんは「人前で話をするとき、5W1Hに加えて自分が感じたことを自分の言葉で話すことが大事」と書かれていますね。

松岡:トークに関して一番大事なことは、人の真似をしてはいけないということです。何かの本や話の中で得たことがあれば、それをいかに自分の言葉として伝えられるかどうか。そこがすべてだと思っています。人の真似だけでは必ずどこかで行き詰まってしまいます。僕は哲学書を読むのが好きですが、哲学書に珍しいことが書いてあるかというとそうではありません。ただ、珍しく感じるような書き方や、その人なりの考えが入っているから面白い。

ですから、会社を立ち上げて人前で話をするのであれば、その人にしかできない話をすべきだと思います。起業するにあたっては、誰もがこうしたいという強い想いを間違いなく持っているはずです。そこが一番の武器で、それが伝われば何らかの形で仕事が広がっていくのではないでしょうか。

ーでは、人に何かを伝える時に効果的な伝え方は?

松岡:理路整然と話すのか熱く語るのか、それは相手によって変える必要があります。僕自身どうしても成功させたい企画があれば、ただ熱く語るのではなく、ものすごく時間をかけて方法を練ります。言ってみればテニスの試合と一緒ですね。人に伝えるということは、結局相手に共感してもらわないといけない。自分の想いを伝えることが勝ちなのではなく、その人がイエスと言ってくれることが勝ちなのであれば、その人に対してなりきるしかないんですよね。

呼吸法1つ変えるだけで緊張の度合いや集中力が変わる

ー松岡さんは、伝える力を磨くために普段でもひとり心の中で「くいしん坊!万才」をやったり、決断力を育てるためにレストランでは5秒以内にオーダーを決める、といったことを日々実践しているんですよね。他にも、緊張をほぐすために取り入れている呼吸法があるそうですが。

松岡:僕はテレビの収録や講演会の前になると、緊張して呼吸が速くなってしまうんです。でも『スター・ウォーズ』に出てくるダース・ベイダーの呼吸を真似すれば、速くなることはまずないんですよ。彼は戦っている時でも呼吸が変わらないので、自分がダース・ベイダーになりきることによって自然と呼吸をコントロールできる。緊張というものは基本的に自分が作り上げるもので、考えることによって生まれます。でもダース・ベイダーをやっていると、そういうことを忘れてしまう。舞台袖で「ホーッ」とやっていると周りはまず笑いますが、これは実は一番理にかなっていることです。

それをもっと違う捉え方でやるのが、お尻の穴をグッと締めるクンバハカ法です。テニスのジュニア合宿では必ずこのクンバハカ法を教えますが、そうすることによって一気に集中力が高まり、堂々と構えることができるんです。

トークがうまくなる秘訣はとにかく練習すること

ー他にコミュニケーション能力を高めるために日常生活で実践していることはありますか?

松岡:本を読む時は、必ず思ったこと、感じたことを書き込んでいます。普通は印象に残る言葉などがあればその言葉を書き出しますが、僕はその言葉を読んで自分がどう思ったのか、どう感じたのかを書き留めるんです。そうすることによって、どんな場面でも、どんな人とでも、コミュニケーションをとることができるんです。僕が一番嫌なのは、相手やそのシチュエーションに操られること。テニスで言えば、ボールに操られる人はうまくなれません。自分が主体となってボールをコントロールしていくということが大事。

それから、トークはとにかく練習だと思いますよ。自分が感じたことを言葉にする機会をより多く作って、表現すればするほどそのポイントが分かりやすくなる。僕は『くいしん坊!万才』のレポーターを14年間やっていますが、料理に対する感想を考えて話したことはありません。考えたらそこで終わってしまうと思うので、食べて感じたことを僕なりの表現で素直に伝えています。

ー先ほど哲学書を読むのがお好きと言っていましたが、お勧めの本はありますか?

松岡:僕は中村天風さんという思想家が好きで、その中村先生の本は少なくとも力になると思います。中村先生は深刻な病気にかかった時に自分の心の弱さを感じ、そこから物事をすべてプラスに捉える「絶対積極」という考え方を取り入れ、日々心の修業をしていたそうです。いつも僕はそれができればいいなと思っていて、中村先生の言葉を自分なりに変えて鏡に語りかけています。自分の心を変えるには、鏡に映った自分に言い聞かせながら話すのが一番早い。「怒らず、恐れず、悲しまず。正直、親切、愉快。力と勇気と信念とを持って……」といった言葉を、毎朝毎晩鏡に向かって唱えています。

相手が自分の言葉をどう捉えどう褒めれば良くなるかを考える

ー松岡さんはジュニアの合宿などで子どもたちを教えていますが、個性を伸ばすために大事にしていることは何でしょうか。

松岡:それは子どもの性格やバックグラウンドによります。ジュニアの合宿では、メンタルのテストをしてその子の家庭環境を見た上で、どうやって僕が伝えればいいかを把握してから接します。そこまでしないと失敗する可能性がある。怒っているだけでは相手に伝わりませんし、ひとつの言葉で傷付くこともあります。意外に思われるかもしれませんが、僕は感情に走って怒ることはまずありません。怒っているときは相当なストーリーを組み立てていて、自分の言葉を相手がどう捉えて最後にどんな形で褒めれば良くなるかということを考えています。

今は世の中的に褒めるということを大事にしていますよね。確かにそれは大事ですが、そこに至るまでの辛い状況や過酷な状況、失敗があるからこそ褒めることができる。その両方がないと成立しません。ですから、褒めるまでのさまざまな過程を見逃してしまうということは怖いですね。

ーそれはビジネスの世界で上司が部下に接するときでも同じでしょうか。

松岡:同じだと思います。本気でその人のことを思って成長してもらいたいと考えているんだったら、限界を超えさせるために一番辛いことを言うんじゃないでしょうか。僕はテニスを教えるとき、振り回しという過酷な練習をやったり、相手にとって一番嫌なことをします。あえてそういう状況を作るんですよ。

人間力を鍛える一番の方法は失敗すること

ーでは、人の上に立つ者にとって重要なものは何だと思いますか?

松岡:この人に付いていきたいと思うポイントは、やはりその人自身の魅力です。この人だったら一緒に賭けていきたいと思える人。それには人間力が必要です。僕が捉える理想のリーダー像は、人間力がある人で、この人のためなら働けると思える人。その人の持っている考え方や具体論が明確であればあるほどついてきてくれると思います。

ー人間力という話が出ましたが、強いて言うと人間力を鍛えるには?

松岡:一番は失敗することだと思います。僕は『プロフェッショナル』や『情熱大陸』などのドキュメンタリー番組が大好きですが、あそこに出てくる人に挫折を感じていない人はひとりもいません。挫折を感じた時にどう捉えていくか、どう力に変えていくかというのは一番のチャンスだと思うんですよ。人って崖っぷちにいかない限りは本当の自分は見えないし、そこで取る態度がすべてだと思います。僕は自分のホームページで「崖っぷちありがとう」とかおちゃらけて言っていますが、ものすごく大事なことを伝えているつもりです。ただ説教のようにするのが嫌だから、笑いながらやっていますけどね。

ー松岡さんは高校時代から世界を舞台に活躍されていますが、パイオニアという立場から、世界で挑戦する起業家に向けてひと言お願いします。

松岡:世界に行きたいという言葉は格好良く聞こえますが、現実を捉えたときには相当な厳しさがあります。仮に向こうで商品を売るのであれば、文化が違う人たちに対してアピールしなければいけない。僕はテニスで世界に挑みましたが、テニスに文化は関係なく、コートの中で起きることは世界共通です。そういう意味ではビジネスはより過酷ですよね。海外に行きたいと言う方に「具体的に何がしたいの?」と聞くと、固まってしまう人が多い。そういう人は相当ラッキーじゃない限り成功しません。

ポイントとしては、それをどれだけやりたいかです。成功したいという想いがあれば、必ずやらなければいけないことが見えてきます。そこから自分の中でキッチリ計画を立てる。人は誰でも失敗のリスクを抱えていますが、計画をきちんと立てている人間は失敗したときに回復が早いんですよ。ここがダメだったら次はこういう形があるということがしっかり見える。気持ちや根性論、情熱というものだけで走っていたら、ものすごく弱いと思うんです。情熱というのはちゃんとした考え方があるからこそ。気持ちだけでは走れないと僕は思っています。

ー松岡さんご自身も綿密に計画を立てて動くタイプなんですか?

松岡:そうですね。僕はこれまでいろいろなチャレンジをしてきましたが、すべてに保険をかけてきたんですよ。慶應高校から柳川高校に転校したときは必ずインターハイで優勝して大学に推薦入学で慶應に戻ることが条件でしたし、渡米したときも必ずスカラーシップで大学に行くというのが両親との約束でした。プロになるときも2年やって成功しなかったら大学に戻るという約束をさせられた。僕は常に自分の中で「これがダメならこれ」というある意味保険をかけていたんですね。今も物事を成功させるために必要なことを紙に書き出して、それを基にすべての準備をしています。無謀なことは絶対にせず、7、8割確信を持ったら行動に移すタイプですね。

言語化することによって自分の考えを明確にする

ーではここで、 起業したばかりの読者にアドバイスや応援メッセージをお願いします。

松岡:起業するということ自体ひとつのチャレンジなので、正しい道なんてひとつもないと思うんですよ。チャレンジは確実にリスクを伴います。ただそのチャレンジは無謀だったら良くないけれど、そこに情熱があって正しいものであれば、失敗しても最終的に辿り着くところが成功になるんだろうなと思います。それだけ信念を持ってやっていけばいいんですよね。だから自分がやりたいことを明確にする、具体化することがすべてだと思います。

僕はスポーツ選手と話をするとき、「なぜ?どうして?」ということを徹底的に聞きます。それは本来なかなか言語化しないことなので、選手にとっては僕のインタビューは多分嫌だと思うんですよ。でも言語化していく中で、自分がどう考えているかということが分かり、それはひとつの力になります。ですから起業に関しても、「やれ!」と言った自分の心の声をより具体化していく作業が最も必要なのではないでしょうか。

ー最後に、松岡さんが今後向かっていきたい方向について聞かせてください。

松岡:僕はプロのテニスプレイヤーとして13年活動をして、現役を退いて15年ほど経ちますが、今の分野にいる方が才能があると思っています。もともとテニスは素質がないと言われて育ってきて、無理だと言われた中でできたものです。一方で、今のポジションというのはあまり人ができないものだと思っています。誰かを応援するということに対しては生き甲斐を感じていて、最も自分が向いていると思っています。それが自動的に仕事になっていて、これほど恵まれていることはないですよね。今後どう動いていくか具体的には読めませんが、東京オリンピックが次に動く大きなきっかけになることは間違いありません。何らかの形で、子どもや教育に携わっていくと思います。

 

(創業手帳編集部)
BB-WAVE掲載日:2015年1月7日

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