「いきなり!ステーキ」や、「ペッパーランチ」を運営するペッパーフードサービス。アメリカでは苦戦するなどメディアを賑わすことが多いものの、世界で1000店舗以上を展開。2018年11月「レストランにて、24時間で販売されたビーフステーキ最多食数」に挑戦し、ギネス記録にも載るなど、話題を集め続けています。

同社の名物社長である一瀬邦夫代表は、親一人子一人の家庭からコックを志し、名のあるホテルでの修行を経て、個人経営のステーキ店「キッチンくに」から事業をスタートしました。今でこそ世界的企業となったペッパーフードサービスですが、これまでにいつ会社が倒れてもおかしくない数々のピンチに見舞われてきたといいます。

一流の料理人であり、多くの壁を乗り超えた日本屈指の経営者でもある一瀬氏が、創業直後の起業家向けに「壁の乗り越え方」を語ってくれました。

一瀬 邦夫(いちのせ くにお)/株式会社ペッパーフードサービス代表取締役CEO
高校卒業後、東京赤坂の山王ホテルに入社。9年在籍後独立し、1970年に「キッチンくに」を開店。1985年に、資本金500万円で有限会社くにを設立。浅草周辺に4店舗の直営店を展開する。
1994年に、長年の構想から低価格ステーキ店「ペッパーランチ」の展開をスタート。1995年に、株式会社に組織変更すると共に、社名を株式会社ペッパーフードサービスに変更。

社員が辞めるのが怖い。「弱い社長」からの脱皮

大久保:経営者につきものの「人の問題」をどのように超えてきましたか

一瀬:一番つらいのは、人が辞めてしまうことですよね。

独立した最初のうちは、従業員がなかなか定着しなくて悩みました。そんな時、甥を店で雇うことになりました。私は職人気質で、自分が良い腕だと信じていたので、甥に対しての指導もきつい言い方をしていました。しかし、甥は辞めずに働いてくれて、さらにいつも笑顔で愛想が良かったので、お客さんにも従業員にも愛されました。結果として店に活気が出て、従業員の定着率もあがりました。ものすごくありがたかったですね。

経営をする中で、従業員が離れていくことが怖くて、逆に社員を叱れなくなったときもありました。「叱ると人が離れていくんじゃないか」と思っていたのです。社員とちゃんと向き合うことを避けて、「弱い社長」になっていました。

転機は、いよいよ資金がなくて倒産する、という状況まで追い込まれたタイミングでした。経理の人から、「今月いくら足りなくて、従業員に給料が払えない」と言われ、お金もなくどうしようもない状況が続いた時があり、1年以上手を打てませんでした。今思うと、強迫観念で身動きが取れなくなっていたのだと思います。

そして、ついに資金が底をつくタイミングがやってきて、顧問税理士からも「もう終わりですよ社長」と言われました。そこで、「従業員の給料を15%カットする」という決断をしました。

その後、店長会議で、経営が立ち行かないから給料を下げさせてくれ、と伝えました。当然、従業員からは反発が出ます。「もうついて行けません」という声がいくつもあがりました。しかしこの時、私はすでに腹を括っていたので、

今辞めるのも、数ヶ月後に会社の資金が無くなって辞めるのも同じ。だからここで辞めていってくれても構わない。でも、どうか一緒についてきてくれないか

と伝えました。厳しい状況に、真正面から向き合ったのです。結局、多くの社員は残ってくれました。そこからなんと3か月もたたずに、業績が急激に上がって回復することができました。

それまで、自分自身が形は社長でオーナーでしたが、覚悟を持って経営していなかった。だから実質、経営者が不在でした。社員は苦しかったり、叱られると辞めてしまうのではないかと恐れていましたが、違うのです。社員が辞めるのは、優柔不断な社長のもとにいたくないからなのです

このことがきっかけで、私は弱い社長から強い覚悟を持った社長に生まれ変わりました。人は信念を持って道を定めることができる社長についてきます。人の問題で悩んでいる創業手帳の読者の皆さんも、自信を持って社員と向き合うと良いでしょう

格言

悩める社長へ。人は、信念と自信を持った経営者についてくる。

「従業員に夢と希望を与える」ために多店舗化へ

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大久保:なぜ、多店舗化で事業を拡大しようと思ったのでしょうか

一瀬:「キッチンくに」は小さい店から初めて、9年後に4階建てのビルになり、飲食店としては、そこそこの成功を収めました。経済的にも何も問題もない状況が、34、5歳くらいまでつづきました。

それでも、社員が辞めていくことはしょっちゅうあり、なぜだろうと悩んでいました。たどり着いたのは、「社長に大きな夢と希望がないからだ」、ということでした。

社員にも夢や希望があります。社員が将来に不安なく働けるくらい会社を大きくしなければ、定着してくれないのです。従業員の安泰が、結果的に自分の安泰につながるのだ、ということに気が付きました。こうして多店舗経営の道を選びました。

大久保:多店舗化にあたってどのようなハードルがありましたか

一瀬:いざ多店舗化しようと考えても、コックという職人はなかなか早く育つものではないし、急には拡大できません。一人の力で店を大きくしていくには限界があります。またしても壁にぶつかりました。ここから、ペッパーランチの仕組みをひらめいたのです。ステーキの業界では珍しく、マニュアルを作って、自動化の設備を整えることで、コックレスの仕組みを作ることにチャレンジしました

窮すれば通ず、ですね。しかし、世の中にないものは反対されます。「そんなやり方ではダメだ」と散々言われました。

そんな中、1994年にペッパーランチの一号店を大船にオープンしたところ、たくさんのお客さんが店におしかけ、大成功を収めました

最初の成功からの拡大に気をつけろ

大久保:誰もやったことがない試みで、華々しいスタートを切ったのですね。その後は順風満帆だったのでしょうか

一瀬:最初の成功で舞い上がってしまっていましたが、飲食店はそんなに甘くありません。一号店の成功で「これはいける!」となり、その後1年で新店を10店舗オープンし、社員をどんどん採用しては新たな店に配属したのですが、結果はなんと全店舗が大赤字。倒産寸前でした

この時、特に難しいと感じたのが、多店舗化による人の育成や意識の団結です。そこで、決起大会を開き、「どうしても辞めてほしくない、倒産もさせたくない」ということを従業員に訴えたところ、業績がだんだん回復していきました。

そこから、今まで続いている社内報の作成もはじめました。私自身が文章を書いて伝えることで、従業員に自分の信念を共有し、会社として団結することの大事さを今でも感じています。

谷の先には、さらに大きな山が待っている

大久保:その他に、どのような壁がありましたか

一瀬:狂牛病が問題になった時も大変でした。自分や社員が悪いわけではないが、社会全体がパニックになってしまっている。このときも、従業員へメッセージを書き、店舗に貼って共有したところ、メディアや、農林水産大臣に取り上げていただくなど話題になり、世間の理解を得ることができたのではないかと思います。

他にも、心斎橋で店員が大変な事件を起こしたり、O157問題がでたり、ゴーイング・コンサーン(経営破綻の危機があることを決算書で報告すること)でにっちもさっちもいかなくなった、など数々の困難がありました。

しかし、人生「山あれば谷あり」とはよく言ったもので、本当に大変な時は、いつでも誰かが手を差し伸べてくれました。ゴーイング・コンサーンで金融機関から融資が受けられなくなった時、仲間が出資してくれたこともありました。

そして、一度谷を超えると次に登る山は前の山より高くなっているから不思議です。この繰り返しで、ペッパーフードサービスは成長してきました。

一瀬流、勝つ飲食店の方程式

大久保:事業で利益を出す秘訣を教えて下さい

一瀬:いきなりステーキは、アメリカ産の良質な牛肉を、厚切りのレアで提供しています。実は創業時の原価率は70%だったんです。普通飲食店はこんな形でやりません。でも私は、「原価率が高くても、お客様が喜んでくれて、大勢来たら利益は出る」という考えでやっています。何よりも大事なのは、顧客満足度です。質が良ければ、お客様は高くてもお金を出してくれます。

世の中は、まずお客様を勝たせることで、自分も勝つようにできています。起業家はこの方程式を覚えておいたほうが良いですね。もちろん、そのためには経営的にも危ない橋を渡りますが、自分を信じる力が必要です。

儲ける前に、お客様に儲けてもらうこと。これが成功した秘訣です。

格言

利益を出すには、まずお客様を勝たせることが大事

大久保:これから飲食店を拡大していきたいと考えている経営者に必要な心構えを教えて下さい

一瀬:まず、飲食店は小さく始めることが大事です。自分も小さな店からスタートしました。実力や経験が浅い中で、いきなり大きな店をやろうとするのは大変です。小さな成功を求めるなら、飲食店ほど失敗しないビジネスはないと考えています。

小さな成功を収めたのち、事業を大きくして多店舗経営にのりだそうか、となった時に考えなければならないのは、「何のために事業を拡大するか」です。いたずらに店を増やしても、満足度が低く、お客様がリピートしてくれないと意味がありません。

小さな店、大きな店どちらにも通じることですが、「いかにお客様に喜んでもらい、リピートしていただくか」。これをブレずに追いかけてほしいですね。

企業はコマと同じで、止まったら終わりです。事業を広げる方向を選ぶなら、新しいことをやり続ける必要があります。

自分との約束を守らないと、会社が潰れる

大久保:前編で、長年「社内報」をご自身で書かれているという話をされていました。なぜですか

一瀬:会社が危機になったタイミングで、社内報を書くことを決め、今も自分で時間を割いて、原稿を書き続けています。社員には、「社内報を書かなくなったら会社は潰れる」とまで言ってました。それぐらいの気持ちで、重要なメッセージを伝えています。

今は、270号。会社が生きるか死ぬかという時期から、270ヶ月経っているということです。一見業績には関係のないことのようにも見えますが、とても大事です。社員に対しての発信という点だけでなく、「自分に対しての約束を守る」ことに意味があります。人は、誰かが見ていない時の行動が大事なのです。人との約束は守るのは当たり前ですが、自分との約束は守らない人も多い。三日坊主で辞めてしまったりね。

社内報によって、自分の考えをまとめたり、世の中や商売・お店をウォッチする力がつきました。そして、社長がやろうと決めたことを、決意を持ってやり続けているという姿勢を社員にも見せられた。これが成長の肝だと考えています。

格言

人は、誰かが見ていない時の行動が大事。自分との約束を守ろう

経営者として「人に与えられて生きている」意識を持つ

大久保:社内報を始め、社員にご自身のビジョンを共有することを徹底されていますね

一瀬:会社を拡大する上で、「社員のまとまりが良い」ことはとても大事です。私は、今でも採用にあたって社員全てを直接面接しています。社員が掲載される写真もちゃんと笑顔かどうかチェックしていますし、朝礼では社員数千人に対して、「今会社がどこに向かっているか」をしっかり伝えています。

こうすることで、会社として皆で同じ方向を向いて進んでいけるのです。

大久保:社員と良い関係を築く秘訣を教えて下さい

一瀬:弊社は今年で50周年になりましたが、最初は親ひとり子一人の家庭からのスタートでした。今でも、母には心から感謝しています。

自分一人で生きていると思うのではなく、人の存在意義は人の役に立つことであり、人に与えられて生きていくことだと考えています。トップに立つ人間こそ、この気持を持たないと、社員とうまい付き合い方はできないですね。

「笑顔、チャレンジ、謙虚」で運を引き寄せる

大久保:常にビジネスの最前線に立ち続ける力は、どこから来るのでしょう

一瀬新しいことにどんどんチャレンジすることですね。今私は77歳になりますが、スマホのアプリを頻繁に使っています。ほかにも英会話とか新しいことをやっている。衰えも感じず、若い人と話をしていてもギャップを感じることはあまりありません。社内で新しいアイデアを出したり、新しいことを始めるのも、いつでも自分です。

また、自分の考えやひらめきをボイスメモなどで逐一記録し、家に帰って毎日書き起こしています。たくさんの考え事を言葉にして残すことで、気づきを得られるし、社員に対しても共有できます。

あとは、朝から寝るまでずーっと仕事のこと考えています。一つのことに一生懸命取り組むことができるバイタリティは、賜物だと思います。

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ノートには、自筆のメモがびっしりと並ぶ

大久保:成功する経営者に必要な資質はなんだと思いますか

一瀬:「強運」ですね。運は、偶然つくものではありません。強運は自分で作るものではなく、人が与えてくれるものです。強運を引き寄せるために、私は以下の3つを心がけています。

  1. 笑顔。笑顔がないとつきがまわってこない
  2. 新しいことをチャレンジしていること。若い気持ちでいること、流行遅れにならないこと
  3. 謙虚な心

この3つを持っている人は、人から好感を持たれます。好感を持たれるから、運がついてくるのです。
一方で、ものすごく頑張っているけれど会社を成長させられない経営者もいます。そういう人たちを見ていると、自分のことしか考えてないパターンが多いです。こうなると、頑張り方を間違ったり、視野が狭くなります。社長だからこそ、人一倍人に気を遣う必要があると思うのです。社員をものすごく大事にし、別け隔てなく接する。裏表なく、嘘をつかない。困難もたくさんありましたが、上手く行かない時こそ、これが大事です。

大久保:気持ちが沈んでいる時、どのように乗り越えていますか

一瀬:今でも売り上げが下がっているときなど、沈むこともたくさんあります。それでも笑顔で話していると、だんだん元気になっていく。数々の困難を超える中で、だんだん「不安な時に自分をコントロールする方法」が分かるようになってきました。特に不安になる時は、その原因を突き止められると半分くらい心が軽くなりますね。

大変なことがあっても、それが永遠に続くとは思わない。何が起きても楽しまなきゃと思えれば、これから起きることにもワクワクできます。

大久保:最後に、経営者にメッセージをお願いします

一瀬企業は、何より働く人たちにとっての幸せありきだということを忘れないでください。
私が事業を拡大してきたのも、人がやめていくと切なくて、皆がついてきて希望が持てる店にしようと思ったのが原動力です。自分だけ幸せになれば良いということではありません。

正しいことを正しくやり、悪い考えや悲観的な考えが出てきたら、自分でぱっと打ち消す。深刻な顔をせず、いつも笑顔で、経営に取り組んで欲しいですね。

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