経済産業省は2018年に「デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するためのガイドライン」を作成。国内の各企業に対して、ビジネスのDX化を推し進めています。

DX推進を放置すれば、2025年以降に年間で最大12兆円の経済損失をもたらすと言われています。しかし、DX推進には、「企業内の基幹システムの老朽化」や「IT人材不足」といった障壁が立ちはだかっています。

今回は、デジタルトランスフォーメーション(DX)の概要や事例、課題について解説します。

そもそもデジタルトランスフォーメーション(DX)とは?

「デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)」とは、ITによるビジネス革新によって、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる概念のことです。
略称を「DT」ではなく「DX」と表すのは、英語圏で「Trans」を「X」と略すことが一般的だからです。

DXは単なる「IT化」とは異なります。部分的にITを取り入れるのではなく、ITで事業を本質的に変える「ビジネス革新」をDXと呼んでいます。言い換えるなら「IT化」はDX推進の手段であり、その先の目的が「DX」と位置付けられるでしょう。

たとえば、友人とのメッセージコミュニケーションにおいては、長い間、手紙のように紙面でのやりとりが主流でした。1980年代後半からポケベルが浸透し、デジタルでのやりとりがスタートしました。
そして携帯電話の普及に伴いEメールでのメッセージコミュニケーションが始まり、現在はスマートフォンの普及によりEメールだけでなく、LINEやFacebook Messengerといったさまざまなツールでのやりとりが浸透しています。

こうした変化によって私たちは、手紙など紙面でのやりとりよりも、よりタイムリーに自分たちが望んだタイミングで、メッセージのやりとりができるようになりました。
これは、ITテクノロジーによって私たちの生活がより良い方向へと変化した例であり、事業が本質的に変化したDX化の一例だと言えます。

ここ数年でDXは、世界的な共通言語として広まりつつあります。しかしながら最近発見された概念ではなく、2004年にスウェーデンのウメオ大学教授 エリック・ストルターマン氏が提唱したものです。

経済産業省がDXを推進するためのガイドラインを発表

国内では、経済産業省が2018年に「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン」を策定しました。
この発表では、DXの定義について、以下のように記載しています。

「企業がビジネス環境の厳しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを元に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化、風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」

(引用:「DX 推進指標」とそのガイダンス|経済産業省

デジタルトランスフォーメーションの事例

「デジタルトランスフォーメーションを推進」と言われても、具体的に自分の会社やビジネスでどのようなことをすればいいのか、ピンとこない人も多いのではないでしょうか。
ここからは、デジタルトランスフォーメーションの具体的な事例をいくつか挙げます。

海外のDX事例

まずは、海外の事例を紹介します。

Amazon

世界有数のECサイトであり、米国IT企業大手4社「GAFA」の一角であるAmazon。
Amazonは人々の消費行動を「店舗へ買い物に行く」から「オンラインで買い物をする」というデジタルに置き換えるビジネス革新に成功しました。

住所やクレジットカードなどの情報を登録しておくとワンクリックで購入できたり、AIがユーザーとマッチしそうな商品をレコメンドしたりする機能を構築しています。
さらには無人コンビニの「Amazon Go」やコンテンツ配信サービスの「Amazon Prime Video」など、多角的なデジタル事業に取り組んでいます。

日本国内のDX事例

次に、国内の事例を紹介します。

ZOZOTOWN

アパレル業界のECサイトとして急成長を遂げたZOZOTOWN。
これまでアパレル商品の購入は「店舗に行き、服を見て(試着して)購入する」という消費行動が一般的でしたが、特に「試着」というプロセスをオンラインへ切り替えることでビジネス革新に成功しています。

サイズが重要なアパレル商品では試着を重視する人も多く、それをインターネット上で完結させることは困難でした。
これを変えたのは、ユーザーの身長・体重からその人に合ったサイズの服をおすすめしてくれる「マルチサイズプラットホーム(MSP)」の導入や、生産から配送までの業務のデジタル化(自動化)といった取り組みです。

三越伊勢丹ホールディングス

2008年に、老舗百貨店の三越と伊勢丹の経営統合により「三越伊勢丹ホールディングス」が発足しました。

三越伊勢丹ホールディングスでは、商品のデータベース管理を徹底しています。商品撮影スタジオ「イセタン スタジオ」を新設し、ECサイトやアプリに掲載する商品写真の質を担保しました。将来的には消費者が全商品をオンライン上で確認することができるようにし、「最高の顧客体験」「新たな顧客体験」の提供を目指しています。

日本におけるデジタルトランスフォーメーションの課題

経済産業省は日本企業でDX推進が遅れていることを指摘しています。この原因には何があるのでしょうか?

実際のビジネス革新に至らない日本企業

経済産業省は「多くの日本企業ではDXの重要性を認識し、デジタル部門を設置しているものの、実際のビジネス革新に至っていない」という課題を指摘しています。

その原因として、次の3点を挙げています。

  • 顧客視点でどのような価値を創出するか、ビジョンが明確でない
  • 号令だけでは、経営トップがコミットメントを示したことにならない
  • DXによる価値創出に向けて、その基盤となるITシステムがどうあるべきか、認識が十分とは言えない

(引用:「DX 推進指標」とそのガイダンス|経済産業省

つまり「とにかくITを使え」という抽象的な号令にとどまっていたり、ただ号令をかけるだけで根本的な仕組みを変えられていなかったり、部門ごとあるいはIT担当者だけで基幹システムを構築(ブラックボックス化)していたりといった事態に陥っていると言えます。

既存システムがレガシー化|2025年の崖

DX推進を阻む要因の一つに、「既存システムのレガシー化」が挙げられます。
レガシーとは「遺産」のこと。企業活動を支えていた基幹システムが長年使われ続け、また刷新されなかったために老朽化・複雑化といった問題に直面しており、DX推進を阻んでいます。

経済産業省は「日本企業の約8割がレガシーシステムを抱えている」と発表しています。

DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~より

(引用:DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~|経済産業省

また、国内ではIT人材不足が深刻化しています。経済産業省は、ITの人材需要が毎年約2〜5%増えたとすると、2030年時点で約45万人のIT人材の不足が生じると試算しています。さらに、日本の既存の終身雇用制度とのミスマッチが起き、優秀なIT人材は外資系企業に高待遇で引き抜かれることも起こっています。

レガシーシステムの継続的な利用、そこに深刻なIT人材不足が重なることで2025年以降に毎年最大で12兆円の経済損失が発生することを経済産業省は「2025年の崖」と呼び、警鐘を鳴らしています。

DX推進を目指すには

こういった課題からDX推進するためには、たとえば以下のような取り組みを行う必要があると言えるでしょう。

  • 経営者が自ら指揮をとってDX推進に取り組む
  • 部門部署の垣根を越え企業全体が一丸となる
  • レガシーシステムの“見える化”や“断捨離”を行う
  • IT人材の待遇を見直し、人材を確保、育成する

DXの概要と課題をまずは知ろう

デジタルトランスフォーメーション(DX)は、単にITツールを取り入れるといった表層的なことではなく、組織体制や提供価値などで根本的なビジネス革新を行うことです。
DXを進める際には、「企業におけるDX推進の分断化」「既存システムのレガシー化」「IT人材の不足」といった壁にぶつかる可能性があるでしょう。

まずは、DXについて理解を深めることから始め、自社の課題を洗い出し、対応策を検討してみてはいかがでしょうか。