人々の移動に革命をもたらす「MaaS(マース)」という概念をニュースやSNSで目にする機会が増えました。

MaaSは、ITテクノロジーを駆使してさまざまな移動手段をつなぐことと捉えられます。一方で企業や行政、地域が連携して社会課題を解決する「まちづくり」といった側面も併せ持っています。

今回は、MaaSの定義やメリット、国内外の事例について紹介します。

MaaSとは

MaaSとは「Mobility as a Service」の略称で、電車・バス・タクシー・自転車・カーシェアなどの交通手段をITによってつなぎ、人々の移動をより便利にするという概念のことです。

これまで私たちが出発地から目的地まで移動するには、ほとんどの場合、交通機関ごとの時刻表や予約・決済方法に従って申し込みを行ってきました。
ですが、「複数の交通機関を調べて申し込むのには手間がかかる」「知らないうちに非効率なルートを選んでいた」というケースも起こりえます。また、高齢者など、身体的な負担からそもそも移動をあきらめている人もいるでしょう。

MaaSはこうした移動の課題をITでクリアにし、最適な移動手段を提供できる社会を実現することと言えます。

MaaSの先進国と言えるフィンランドやドイツなど海外では、すでにこの考え方を基にサービスの提供が始まっています。日本国内でも国土交通省は、平成31年からMaaSの地域モデル構築の実証実験をサポートするといった政策を進めています。

単なる「移動手段のシームレス化」ではない

しかしながら、「アプリでまとめて予約できるようにすればいい」というほど、MaaSの実現は簡単ではありません。交通機関ごとあるいは地域ごとの事情に応じて、社会課題を解決できるような仕組み作りが必要となります。

たとえば、乗り換えやすさを高めるために自治体による駅前の整備や、交通機関で働く人材の確保など、さまざまな取り組みを必要とします。

前出のフィンランドでは、民間ではなく行政が主体となることで、MaaSサービスの提供に成功しています。

MaaSの浸透によるメリット

MaaSの浸透は、より便利な人々の移動を実現します。現在では、特定の都市・国のみでサービスが提供されている状況ですが、MaaSが世界中に広まることで「スマホ一台あれば世界中どこでも移動できる」という時代が、到来するかもしれません。

またMaaSは、移動に負担がかかりやすい高齢者の対策としても期待されています。
たとえば富山県朝日町では、免許返納者などに対して「ノッカルあさひまち」というライドシェア(相乗り)サービスなどを提供しています。これは、ご近所さんが自家用車でお出かけする際に、ついでに「乗っかる」ことができるサービスです。
同サービスは2020年8月から、広告代理店の博報堂や自動車メーカーのスズキの協力により提供されています。

このような地域の課題解決を狙うことができるのも、MaaSによるメリットと言えるでしょう。

MaaSの海外事例と日本での取り組み

ここからは、国内外で進められているMaaSの取り組みを紹介します。

MaaSの海外事例

フィンランド

フィンランドでは「Whim」というアプリが広まっています。官民連携で開発を進められたサービスとして世界的に有名です。

Whimは、目的地までの経路をいくつか提案し、ユーザーが選んだ経路に必要な予約・決済を行ってくれます。Whimでは、ヘルシンキ市内の公共交通機関だけでなく、タクシーやレンタカー、カーシェアリングといった移動手段を利用できます。

料金は「利用した分だけポイントで支払う」または「月額定額」など複数のプランから選べます。Whimは、日本(千葉県柏の葉と東京エリア)での実証実験も2020年から行っています。

ドイツ

「moovel」は、ドイツの大手自動車メーカーが子会社を設けて提供しているサービスです。公共交通機関、タクシー、カーシェア、レンタサイクルなどの情報をまとめています。
Whimと同じく目的地までの経路を提案し、アプリ内で予約・決済を完了できます。

moovelは交通情報を提供しているため、現在発生している渋滞・遅延を避けて経路を選ぶことも可能です。

国内では、moovel社が東急電鉄やJR東日本と連携したアプリ「Izuko(イズコ)」を開発し、2019年に東伊豆および中伊豆エリアで実証実験を行っています。

日本国内での取り組み

JR東日本

JR東日本は「モビリティ・リンケージ・プラットフォーム」の開発を進めています。
これは、移動に必要な情報収集や、同社が提供するサービスの乗車券の予約・決済などをまとめてできるサービスを目指しているものです。

2020年には、Suicaとクレジットカードを結びつけてシェアサイクルやタクシーを利用できるアプリ「Ringo Pass」の実証実験を段階的に行いました。Ringo Passではタクシーの配車を行えたり、シェアサイクルのポートを確認したり、ポートでの決済から返却手続きまで可能です。

トヨタ自動車×ソフトバンク

トヨタ自動車とソフトバンクの共同出資会社「MONET(モネ)Technologies」。
同社がMaaS事業として手掛けている「MONETオンデマンドモビリティ」は、自治体・交通会社に対し、オンデマンドの予約・乗車システムを提供しています。

このシステムで集められた乗降・運行データを活かして、最適な乗降位置や経路を設定することが可能となります。「定時運行型」「事前予約型」「即時乗車型」といったユーザーの移動方法に合わせて、乗降位置を設定できます。

MONETには、ホンダやマツダ、日野自動車といった自動車メーカーも出資しています。

MaaSは「まちづくり」の基盤となる

MaaSは、私たちの移動に変革をもたらすだけでなく、本質的には「まちづくり」における課題を解決することも可能です。私たちの暮らしを便利にするだけでなく、災害時の救助活動をスムーズにしたり、運転が困難な高齢者が自ら運転することなく移動可能になることで交通事故を未然に防ぐ、といったことにも有効な手段となりえるでしょう。