プロジェクト型シェアハウス「湯治ぐらし」

一人暮らしや家族との生活だけではなく、友人同士や初めて出会う人々と一緒に生活をするシェアハウスやソーシャルアパートメントなど、暮らし方が多様になってきています。そんな中、大分県別府市鉄輪(かんなわ)では「湯治ぐらし」という新しいかたちの暮らし方が生まれています。

湯治ぐらしは、湯治を「自分のからだとこころを見つめ直す静かな時間」と再定義して、湯治を暮らしに取り入れているプロジェクト型シェアハウス。ここでは、日本で古くから続く養生法である「湯治」を活用した暮らしが営まれています。

日本古来から続く養生法「湯治」とは

そもそも「湯治」とは、日本で古来から続く養生法のひとつ。一般的には、​​温泉地に一定期間滞在しながら病気などを治療することを指します。かつては武士たちが温泉で傷を癒し、農民たちは閑散期になると骨休めのために温泉地を訪れていました。心身の養生のためであった温泉は、今では観光の一つになっています。そのため、湯治宿(湯治を目的に訪れる人のための宿)も減少してきているのが現状です。

湯治は、現代にこそ通じる心身のリ・トリート(扱い直す)と定義しなおし、こうした様々な生き方・働き方を広めていくことを決めた大阪府出身の菅野静さん。約20年間の会社員生活に終止符を打ち、自らが新しく定義した「湯治」を日々の暮らしに取り入れるシェアハウスをオープン。それが、2020年2月にオープンした「湯治ぐらし」です。

湯治ぐらしでは、「湯治は、現代にこそ通じる心身のリ・トリート」にに共感した「湯治女子」「湯治男子」たちが、自分自身の心身を見つめ直し、新たな活力や住民同士・周辺地域との関わりから自分にフィードバックをするような暮らしや、自発的なプロジェクトを生み出し取り組む暮らしをしています。

2021年7月時点で、湯治女子の住む家が2軒と湯治男子の住む家が1軒、合計3軒の湯治ぐらしが鉄輪エリアに建っています。今回は、その中でも「湯治ぐらし〜女子編〜」にフォーカスを当ててレポートしていきます!

湯治ぐらしでの「湯治」な暮らし

コロナ禍で、思うように外出ができなかったり、外食を自粛したり‥‥。在宅勤務やオンライン会議が主流になり、家で過ごす時間が多くなってきたからこそ、改めて暮らし方そのものを見直す人も増えてきたのではないでしょうか。
前述したとおり、湯治とは「温泉を使った、日本古来の養生法」のこと。しかし、湯治ぐらしでは、温泉だけではなく日々の食事や地域の人との交流など、生活そのものを「湯治」と定義しています。

「食事」を通して自分自身の体調やコンディションと向き合うことも、立派な湯治。湯治ぐらしでは、キッチンに居合わせた人たちで料理を作ったり、週末には住人みんなで食事をとったりする時間も大事にしています。学校や仕事終わり、みんなで食卓を囲む時間こそが自分自身の息抜きになり、明日への活力になるのではないでしょうか。

湯治女子(みんなで食事を作る様子)

湯治女子(みんなで食卓を囲む様子)

近くに借りている畑では、みんなで協力して野菜を育てています。冬はほうれん草や大根、キャベツを。夏は、トマトやなす、紫蘇に空芯菜、オクラや枝豆も収穫できます。肥料や農薬は必要最低限にして、自然に近い状態で育てているので、自分たちも安心して食べることができるのもメリットの1つです。

畑で野菜を育てる様子
また、畑仕事を通して「アーシング」ができるため、気分もリフレッシュ。私たちの身体は、都会での生活や日々のデスクワークによって、体内に電気を溜め込んでしまうと言われています。自らが自然と触れ合うことによって、体に溜まった電気やそれによって起こった不調を大地に解き放ってくれるのだとか。日々の畑仕事は、心身の健康維持に一役買ってくれています。

食事と畑仕事を終えたら、温泉に浸かって心身を解き放つことができるのも、湯治ぐらしの良いところ。贅沢なことに、家の近くにはいくつもの温泉があり、その日の気分や体調に合わせて温泉を選ぶことができるのです。

居合わせたおばあちゃんたちと交流したり、シェアメイトと他愛もない会話をしたり、その時々で楽しみ方を変えることができるのも、鉄輪という温泉地にあるシェアハウスだからこそ。

身体のコリがほぐれるのはもちろん、保湿成分であるメタケイ酸を多く含んでいる鉄輪温泉は、美肌効果を期待できるのも女性に嬉しいポイントです。

近所の温泉でリフレッシュ

もちろん、それぞれの授業や仕事など、集中できる環境があるのも湯治ぐらしの魅力。各部屋にはテーブルと椅子が常設されており、リビングにも作業環境が整っているので、気分を変えながら集中することができます。

また、窓を開けると湯けむりが見えるので、ちょっとした息抜きにも最適。オンラインでの授業やミーティング、リモートワークが普及してきたからこそ、リフレッシュしながら作業に打ち込むことができる環境がとても大切ではないでしょうか。

部屋だけでなく、リビングにも作業環境が整っている

住人のインタビュー

今回は、湯治ぐらしに住む女子学生2人と社会人1人に、実際に暮らした体験を踏まえて、お話を聞いてみました。

「湯治ぐらしを通して、自分の暮らしに意識を向けるようになりました」~大学3年生 廣瀬琴葉さん~

【入居したきっかけ】

大学進学を機に別府へ来て、温泉が身近になったからこそ、せっかくなら温泉を満喫したいと思ったことがきっかけです。そして、学生の間に、シェアハウスに住むという経験をしてみたいと思いました。実際に湯治ぐらしに住んでいる人から、そこでの生活や魅力を聞いて、自分でも確かめてみようと思ったこともきっかけの1つです。

【入居前後の変化】

湯治ぐらしでは、年令問わず色々な人が住んでいて、みんながそれぞれ自分のやりたいことに向かって突き進んでいます。だからこそ、自分自身もやりたいことを考えるきっかけになりました。また、自分の生活を大事にする意識が芽生えたことも、入居してから感じる変化です。

【あなたにとっての「湯治」とは】

「暮らし」に意識を向けるもの。以前までは、暮らしというよりも、目の前のことをこなすような生活をしていました。湯治ぐらしに入ってからは、一つ一つの行動や暮らしに意識を向けるようになり、温泉を通じて、自分自身と向き合うきっかけが出来ました。
私とって、湯治とは、「日々の暮らしを大切にしながら過ごす」ことです。

大学3年生 廣瀬琴葉さん インタビュー

「自分の好きを発見して、それを活かすことのできる家です」~大学2年生 西村菜津子さん~

【入居したきっかけ】

大学へ入学したものの、コロナ禍でオンライン授業に切り替わったので、パソコンと向き合う日々でした。人に会う時間が圧倒的に減り、全く会話をしない日が続いていました。モヤモヤを抱えているとき、たまたまテレビで湯治ぐらしが紹介されているのを見て、「ここで暮らしてみたい」と感じたことが、入居のきっかけです。

【暮らす上で変化していったこと】

自分のことを見つめ直す時間が増えました。それまでは、自分の好きなものやしたいことについてあまり考えたことはなかったのですが、ここで暮らすうちにいろいろな人と出会い、自分自身のことについて考えるようになりました。お菓子を作ったり、飲み物を作ったり…。私は、そういうことが好きなんだと実感しました。シェアハウスのみんなでイベントを企画してドリンクを提供するなど、自分の得意なことを形にできるようになったことも、入居して変化した点です。

【湯治ぐらしで生活するメリット】

鉄輪は、いろいろな人に出会える場所です。これまで知り合うことのなかったような人たちと出会って、会話をすることが面白いです。趣味や職業に関係なく、いろいろな人たちが集まるので、自分自身もいろいろな発見をすることができます。
実家だと授業を受けるだけですが、湯治ぐらしだと、授業を受けている合間にも一緒に暮らす人たちと会話をできるのがいいなと思います。湯治ぐらしという場所を通して、学生だけではなく多様な人と暮らすことができる点も、ここで生活するメリットです。

大学2年生 西村菜津子さん インタビュー

「様々な価値観に触れて、自分の引き出しを増やすことができました」~社会人 渡邉花さん~

【入ろうと思ったきっかけ】

仕事では関わることのなかった人たちと関わることができると思ったからです。仕事をしていると同じ業種の人たちと話す機会が多いのですが、シェアハウスを通じて学生や他業種の方など、新しい出会いがあるのではないかと考えました。また、これまでも鉄輪に訪れる機会はあり、街にいる人の温かさや温泉が身近にあるところを魅力的に感じていました。だからこそ、この街に住んでみたいと思ったことも入居のきっかけです。

【暮らす上で変化していったこと】

住人それぞれ違う趣味があるため、色々なことに一緒に挑戦することで、興味の幅が広がりました。例えば、これまでは畑仕事をしたことがなく、スーパーで買う野菜がどのように育つのかも知る機会はありませんでした。畑好きの子が管理する湯治ぐらしファームを通じて、野菜を育てるということを一緒に経験できたことは貴重な経験です。
自分一人で暮らしていたら広がらなかった興味の幅が広がり、これまで以上に人生が豊かになった気がします。

【湯治ぐらしで生活するメリット】

仕事で行き詰まることもあるのですが、そんなときにあえてシェアハウスにいるみんなと他愛もない会話をすることで、気持ちがリフレッシュできます。一緒に食卓を囲むことで、自然と元気が湧いてくることも、予想はしていなかった湯治ぐらしでのメリットです。

社会人 渡邉花さん インタビュー

一般的なシェアハウスとは違い、暮らす上で自分自身のことをより深く知ることができる湯治ぐらし。日常的に自分自身のことを見つめ直すというのは、私たちにとっても必要なことかもしれません。

また、仕事をしていたらなかなか知り合えない人たちと出会うことができるのは、湯治ぐらしならでは。様々な年齢層の多様な人たちが暮らす家だからこそ、自分自身の興味の幅や価値観が広がっていき、自らの引き出しの多さに繋がるようです。

今回は、在宅勤務が主流になってきた方に、是非おすすめしたい暮らし方をご紹介しました。改めて、自分自身の暮らし方を見つめ直してみてはいかがでしょうか。

 

ライタープロフィール
橋本明音(はしもとあかね)

橋本明音(はしもとあかね)

群馬県出身。駆け出しの、プロデューサー兼ライター。自分が見て感じたものを、文章やデザインに落とし込むことが好き。趣味は、料理、畑、キャンプ、コーヒー、お酒。インドアもアウトドアも楽しめちゃう人。