「湯で治す」と書いて湯治(とうじ)。湯治とは、日本に古くから伝わる治療法で、温泉宿に長期滞在しながら、温泉を利用して病気の治療や療養に専念することを指します。大分県別府市の鉄輪(かんなわ)は、湯治文化で栄えた歴史を持ちます。今も湯治宿として営業している方の話によると、当時は広島や四国から、毎年家族で数週間から1ヶ月も湯治に訪れる農家がたくさんいたのだそう。

湯治ぐらし3

時は経ち、そんな文化も徐々に薄れつつある現代。ここ鉄輪で、湯治文化の再興に向けて取り組んでいるシェアハウスがあります。湯治を通して、自分の心と体に向き合うことを目的としたシェアハウス「湯治ぐらし」は、現在鉄輪を中心に3棟あります。その中でも、新しくオープンしたのが男性専用の「湯治ぐらし3」。地元の大学に通う学生と、様々なバックグラウンドを持った社会人が同居しています。

今回は、そんな「湯治男子」な大学生と社会人にインタビュー。入居して間も無く半年を迎える彼らの考える湯治、そしてその魅力とは?

柴田 雅大さん:社会人
1996年神奈川県生まれ。明治大学卒。フィリピンでインターンを経験後、IT企業へ新卒入社。入社後は、新規サービスの立ち上げ、B2Bマーケティングの業務を経験。現在は、東京に拠点を置きつつ、別府でワーケーションを実践中。趣味はサウナ。

柴田 雅大さん

円城寺 健悠さん:大学生
2001年、佐賀県佐賀市生まれ。別府大学 文学部 史学・文化財学科 日本史・アーカイブズコース アーキビスト養成課程3年生。アーキビストを志し、大分県別府市を中心に、アーカイブズ(歴史的価値ある記録)の収集・保存・活用を行っている。

円城寺 健悠さん

温泉で体調を整えることができるなんて知らなかった

深川(以下 深):2人は、湯治ぐらし3に住む前から「湯治」についてはどのくらい知ってたのかな?

柴田(以下 柴):今携わってる温泉に関する事業を通して知りました。それまでは、別府はもちろん、温泉に対する知識なんてほとんど無くて、最初に湯治について知った時は、「本当に温泉でそんなことができるのか?」と思いましたね(笑)

円城寺(以下 円):2年前の大学進学で別府へ移り住んでからですね。史学科の研究で鉄輪のことを調べていくと、湯治文化のことが色々と出てくるんです。そこで初めて「湯治」を知りました。僕も柴田さんと一緒で、「温泉でそんなことができるのかー!」と最初は驚きました(笑)

深:そもそも、湯治ぐらし3に入居する前から温泉に入る習慣はあったのかな?

柴:全くないですね。こんなにも身近に温泉があること自体が珍しいですから(笑)湯治ぐらし3に入居する前は、ずっと都内でリモートワークをしていて、日中はずっとワンルームの自宅に缶詰状態。その息抜きとして週に数回近所の銭湯に行っていました。温泉ではないですが、お湯に浸かったり、サウナを利用することがこんなにもリフレッシュできるのかと驚きました。湯治ぐらし3に入居してからは、ほぼ毎日入ってますね。

円:僕は、大学の温泉愛好会に入っていることもあって、毎日のように入ってました(笑)学生寮の部屋にはシャワールームがあるんですが、そこを利用するよりも近所の温泉の回数券を利用した方が安いんですよね。これは別府市民の特権だと思っていて、シャワーよりも近所の温泉の方が安いっていう(笑)僕も、湯治ぐらし3の温泉には毎日のように入ってますが、今も市内の共同温泉にもよく行っています。

湯治を取り入れたそれぞれのライフスタイル

深:実際に、毎日のように温泉に入る生活を始めて変化は感じてる?

柴:実感してますね。僕は、アイデアに煮詰まったら温泉に浸かるようにしていて、そこでリフレッシュしてからもう一度業務に向かうことは習慣化しています。都内にいた時も家にシャワーはあるんですが、そんなことは一度もしたことがなかったですね。そう考えると、湯治ぐらし3って贅沢な環境だなと(笑)

円:僕も柴田さんと似ていて、授業の空きコマに温泉に入ったりしています。そこでリフレッシュしてからもう一度講義を受けに行くんですね。僕が温泉に行く時って、一人でぼーっとしたい時が多かったりします。色々と忙しくなってくると、ストレスや疲れが溜まって頭の中の整理が必要になってくるんです。そう感じ始めたら、一人で自分を振り返る時間を温泉でとるようにしています。

深:2人の話に共通しているところに、「温泉=リフレッシュする場所」っていうのがあると思うんだけど、それまではどうやってリフレッシュしてたのかな?

柴:友達との飲み会ですね。学生時代から暇が苦手で、サークルやゼミ、バイトなどを入れてなるべく忙しくしていたんです。そこで溜まったストレスを発散する先が、飲み会でした。たくさんお酒を飲んでってわけでは無く、誰かと同じ時間を共有するということが大事だったんだと思います。だけどそれがコロナ禍に入ってできなくなってしまった。そこで出会ったのが銭湯だったんですよね。集団行動が制限されている中でも、銭湯に行けば誰かがいるという安心感を得られて、そしてお湯とサウナで身体的にもリフレッシュできる。今の湯治ぐらし3にも同じようなものを感じています。ごはん時にリビングに行けば誰かがいて、疲れたら温泉に入る。ここで得られるものは、身体的なものだけでなく、精神的なものも大きいなと思っています。

円:僕の場合は、釣りでした。さっきも話した通り、1人でぼーっとするのが好きで、何か考え事をする時は近所の川でずーっと釣りをするんですね。別に魚をたくさん釣りたい訳ではなく、竿を垂らして、魚が食いつくのを待つ時間が好きというか。別府に来てからは、その1人でぼーっとする時間が温泉に変わりました。別に、常に1人でいたいという訳では無いので、誰かと話したいと思ったらリビングに行けば誰かいるし、自分自身のパーソナルスペースも保たれている湯治ぐらし3は、とても心地よいなと思っています。


柴:一緒に住んでいるメンバーも多種多様で、入居前に見学に来た時に、とても刺激的な場所だなと感じました。こういう時期でもあるので、都内でこの環境を得ることはなかなか難しい。そして、今では湯治男子だけでなく、地元の方々との交流も増えていて、想像をしていなかったところからたくさん刺激をもらっています。

円:学生寮での生活にはある程度慣れていたんですけど、ここはまた違う良さがありますね。柴田さんの話にもあった通り、一緒に住んでいる人たちの幅が広く、学生の私にとっても刺激的です。家に帰れば誰かがいるという安心感は、実家に似たようなものを感じています(笑)


湯治ぐらし代表の菅野氏は、湯治を「からだとこころを見つめ直す静かな時間」と定義づけています。身体的な疲労を癒すことを目的とした旧来型の湯治に収まらず、精神的な疲労と向き合うことにも重きを置いたムーブメントを目指します。湯治が全盛を極めた時代から、人々の働き方や考え方も大きく変化した今の時代には、肉体的な癒しよりも精神的な癒しを求める動きの方が強くなっているように感じます。未曾有のパンデミックに突入して2年目の今こそ、改めて自分自身のライフスタイルを見直すきっかけとして「湯治」をオススメしたいです。

 

筆者プロフィール
深川謙蔵
1990年佐賀県生まれ。立命館アジア太平洋大学卒。卒業後は株式会社オプトに入社し、新卒採用担当として勤務。2019年3月から別府に移住。コロナ禍では、別府の風景を販売するチャリティの企画や、複数の飲食店と協力して朝ごはんを提供するイベントを運営。2021年5月より、「地域の人が、地域の人に学ぶ『湯の町サロン』」を主宰。