これから個人事業主になる方は、実際に独立する前に社会保険について理解しておくことが大切です。なぜなら、会社員と個人事業主とでは、社会保険の適用が異なるためです。
個人事業主になってから「知らずに後悔した……」という事態を避けるために、押さえておきたいポイントについて解説します。
会社員と個人事業主における社会保険の違い
まずは社会保険の概要、会社員と個人事業主の違いについて解説します。
生活を支える5つの社会保険
社会保険とは、国が定める「社会保険制度」のことです。病気やケガ、災害、退職、失業といった生活上のリスクを、国・自治体の財源でサポートしてくれる仕組みです。
これらは、日本国憲法 第25条の「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」という精神を実現したものといえます。
日本の社会保険は、「健康保険」、「年金保険」、「介護保険」、「雇用保険」、「労災保険」の5つがあります。それぞれの特徴は以下の通りです。
社会保険制度 | 特徴 |
健康保険 | ・病気やケガで医療機関に通院・入院した場合に適用される保険 |
介護保険 | ・高齢者の介護負担に適用される保険 ・原則40歳以上の国民に保険料の支払い義務がある |
年金保険 | ・定年退職後や、病気やケガで働けない場合に生活を保障する保険 ・20歳以上の一定期間にわたり保険料を支払うと保障を受け取れる |
雇用保険 | ・さまざまな理由で退職や失業になった場合に生活を保障する保険 ・加入条件(31日以上の雇用、1週間の労働時間が20時間以上など)がある |
労災保険 | ・勤務中や通勤中の病気やケガ、死亡に対して本人もしくは遺族に給与の一部を支給する保険 |
一般的に雇用側は、従業員を社会保険に加入させる義務があるため、会社員であれば基本的にこれら5つの保険に加入することになります。
こんなに違う!会社員と個人事業主の社会保険
会社員から個人事業主になる場合は、これまでの社会保険と適用が異なることを理解しておかねばなりません。
社会保険制度 | 個人事業主 | 会社員 |
健康保険 | ・国民健康保険、健康保険組合の保険、会社員退職時に「任意継続(※後述)」のどれかを選び加入 ・保険料は全額自己負担 |
・給与額で保険料が決まる ・保険料は会社と折半 ・扶養家族がいると保険料が軽減される |
介護保険 | ・保険料は全額自己負担 | ・給与額で保険料が決まる ・保険料は会社と折半 |
年金保険 | ・国民年金のみに加入 ・毎月一定額を支払う ・保険料は全額自己負担 |
・厚生年金と国民年金に加入 ・給与額で保険料が決まる ・保険料は会社と折半 |
雇用保険 | ・加入できない ・人を雇う場合は、一定の条件で、従業員を加入させる義務がある(※後述) |
・保険料は一定の割合で会社と負担 |
労災保険 | ・加入できない ・人を雇う場合は、従業員を加入させる義務がある(※後述) |
・保険料は会社が全額負担 |
会社員は、基本的に社会保険料の半分または一部を会社に負担してもらえますが、個人事業主は全額自己負担となります。(雇用保険・労災保険は加入自体が不可)
また、支払い方法は会社員が給与からの天引きで、個人事業主が納付書や口座振替などになります。
知っておきたい個人事業主の注意点
会社員と比べた場合の注意点について解説します。
自分で加入・手続きを行う必要がある
会社員は会社側が加入手続きを代わりに行ってくれますが、個人事業主は自分で行う必要があります。
支払いに関しても、会社員は給与から天引きですが、個人事業主は納付書での支払いまたは口座振替となります。
経費ではなく社会保険料控除として扱う
個人事業主は、自分で毎年度「確定申告」を行います。確定申告では、社会保険料を事業経費として処理できません。代わりに「社会保険料控除」として申告します。
会社員で加入した社会保険の継続には条件がある
会社で加入していた社会保険は、退職日の翌日にその資格を失います。
健康保険なら、「任意継続」を選ぶこともできます。この手続きを行うと、退職後も最大2年間健康保険を継続できます。
ただし、次の条件を満たさなければなりません。
- 社会保険の資格を失う日より前に、健康保険の被保険者期間が継続2ヶ月以上
- 退職日から20日以内に任意継続申請書を提出する
一人でも雇うと雇用保険や労災保険に加入させる義務が生じる
雇用保険や労災保険は、個人事業主本人が加入することはできません。
ただ、一人でも労働者を雇用した場合は、労災保険に加入させる義務が生じ、保険料を全額負担しなければなりません。
雇用保険も同様で、加入条件(31日以上の雇用、1週間の労働時間が20時間以上など)を満たす場合は加入させる必要があります。
その他の健康保険、介護保険、年金保険については、従業員5人未満の場合、任意で加入させることができます。従業員5人以上の場合は、加入義務が生じます。
年金保険は「国民年金」のみになる
会社員(第2号被保険者)が厚生年金と国民年金の両方に加入するのに対して、個人事業主(第1号被保険者)は国民年金のみの加入になります。
違いを理解した上で準備・対策を進めよう
会社員から個人事業主になる場合の社会保険の違いについて解説しましたが、「会社員が思っていた以上に優遇されていた」と気づかれたかもしれません。
個人事業主を希望される場合は、今回ご紹介した違いを押さえ、必要な準備・対策を進めましょう。
※掲載情報は2020/10/14時点