「信州三大秘境」や「日本の秘境100選」にも選ばれた、長野県の最南端にある山里「遠山郷」。この土地に2019年7月、空き家となっていた古い雑貨店をリノベーションして作られた、小さなゲストハウス「遠山郷ゲストハウス太陽堂」がオープンしました。

店舗のあった1階をゲストの交流スペースとして、2階を客室としてリノベーション。一般的なゲストハウスと違って、交流スペースにはゲストばかりでなく、地元の人々も訪れます。

「1階の交流スペースは、ゲスト同士の交流だけでなく、ゲストと地域の人、地域の人同士の交流の場にもなっています。近所の子どもたちは畳の部屋に上がって遊んでいますし、子どもを預けていく人もいます。移り住んで3年が経ちましたが、今では近所の人が悩み相談に来てくれたりもします(笑)」

1階の交流スペースはゲストと地域の人との交流の場に

そう話すのは「遠山郷ゲストハウス太陽堂」のオーナー、水戸幸恵さん。東京でのサラリーマン生活に区切りを付けて、憧れのゲストハウスをオープンするため、この地に移り住んできました。

移住から開業までのエピソード(前編)はこちらから

「ここに来れば、ネットが使えるよ」といわれる場所

東京から“秘境”と呼ばれる地域に移り住んでも、日常的な買い物などにはとくに不便を感じたことはないと水戸さんはいいますが、インターネット環境についてはどうなのでしょう?

「移住してきてすぐは、市営住宅を借りて暮らしていたのですが、谷間ということもあって、電波が入りにくいんです。だからテレビは、ケーブルテレビを契約して見ていました。インターネットもそのケーブルテレビの回線を利用していたのですが、これがすごく遅くて(笑)」

仕事ではとても使い物にならないので、開業した太陽堂ではビッグローブ光を導入。宿泊に来たゲストはもちろん、自分自身でも使うので、安定したインターネット環境を作り上げたといいます。

「このあたりは、まだネット環境が整っていないので『太陽堂に来ればネットが安定して使えるよ』というフリースポットのような場所にしたかったというのもありますね」

光回線を導入したあとは、インターネットを仕事や日常生活にフル活用。東京にいたときよりも恩恵を受けているといいます。

「仕事のうえでは、クラウド会計ソフトがめちゃくちゃ役に立っています。それとAmazonも便利ですね。リノベーション中に足りない部材があったのですが、ポチッとするだけで翌日には届いてしまうんですから。ホームセンターに行こうと思ったら、片道1時間はかかるので大変だし、作業も止まってしまいますから、とてもありがたかったですね」

ほかにも、放送局の少ないテレビの代わりにAmazon Primeで映画などを鑑賞したり、ZOOMで地域の人たちと交流したりすることもあるそうです。

「大雨が降ると道が崩れたりすることがある地域なので、道が通れなくなると外出もままなりません。でもZOOMがあれば、そんなストレスも軽減できます。最近はみなさんがZOOMを使うようになったので、より便利になっています」

住民が地域の情報を共有できるようなアイデア

もともとインターネット業界で働いていた水戸さん。最近は都会にはない田舎ならではのインターネット活用も楽しんでいるといいます。

「田舎って、オンラインに載らない情報がたくさんあるので、それをインターネットに載せることにおもしろさを感じているんです。例えばスーパーの手書きチラシ。インターネットに載せるのであれば、パソコンを使って見た目にもキレイなものが作れるじゃないですか。でもあえて手書きチラシを載せる。そのほうが人の一生懸命さが伝わるような気がするんですよね。デジタルなのにアナログを載せるというギャップも、また楽しいんです」

そんな、地域の人たちも巻き込んでインターネットを活用することで、より楽しく便利な環境作りをしている水戸さん。これからもっとITを活用することで、暮らしを豊かにしていきたいといいます。

「田舎なので、いまだに回覧板が紙でまわるんです。でもまわるのは1軒ずつなので、二世帯住宅だと、親の世帯が読んでまわしてしまって子ども世帯は読んでいない、ということが起こってしまうんです。そうなると情報が共有されなくて困ることもあります」

そこで水戸さんは、確実に情報の共有ができるように、このエリアの公式LINEアカウントを立ち上げて情報を流しています。

立ち上げ当初は10数人と、登録者数もなかなか伸びませんでした。ところが、新型コロナウイルスが流行したタイミングで需要が拡大。さらに登録者数を増やそうと、LINEアカウントのQRコードを載せたアマビエ(日本に古くから伝わる妖怪で、疫病を予言、退散させたとされることから、ネット上を中心に話題になった)ステッカーを配ったことから、徐々に浸透していったといいます。

「今では100人ちょっとにまで増えました。回覧板でまわっているような情報や『この日に遠山郷がテレビに出るよ』とか『何日にパン屋さんが来るよ』という情報を流しています。人と人との距離感が近い地域なのですが、こういうツールで情報を個人に直接届けられると、もっと便利になりますよね」

これからは情報共有のレベルをもっと上げていき、”田舎なのにIT使いこなしている村”にしていきたいと水戸さんはいいます。

SNSはもちろん、店舗マップ管理も活用

もちろん、自分の暮らしや地域の発展のためのIT活用だけでなく、太陽堂への集客のための活用も行っています。

「集客に活用しているのは、おもにFacebook、InstagramといったSNSと太陽堂の公式サイトです。それ以外には、Googleマップも活用しています。基本情報を登録しておけば、Googleマップで検索したときに宿の情報が表示されますから、お客さんに選んでもらいやすくなります」

実際に宿泊したゲストに「どこで見て来てくれたの?」と聞くと、Googleマップと答える人も多いそうです。さらに「BIGLOBE店舗マップ管理」を導入したことで、Google マップとともに、Facebookや Instagramの情報も一元管理できるので、運営が楽に行えるといいます。

さらに水戸さんが注目したのが、キャッシュレス決済です。遠山郷周辺では、キャッシュレス決済を導入しているお店が少なかったことから、日頃キャッシュレス決済に馴染みのある人へアピールできるのではないかと、導入をはじめました。

「導入したのはPayPayです。6月までの5%還元は、事業者側に負担がかからず利用者に喜んでもらえるので、導入にはいいタイミングでした。クレジットカードと違って、手数料がかからないのもありがたいですね。売り上げが少額なので、数%でも手数料がかかるのは、正直痛いです」

お客さんのPayPay利用率は、今のところ10%弱とまだ少なく、使っていたのはほとんどが東京のお客さん。それでもお客さんにとって利便性があり、選んでもらえるきっかけとなれば、集客も上がるはずです。

このようにインターネットを使った生活や集客を行うことで、人と人とのつながりが増えてきたと水戸さんはいいます。

「まだ『遠山郷で暮らしたい!』という人まではいませんが『遠山郷を知っている』『遠山郷が好き』という人は、太陽堂を通じて増えている実感はあります。オンライン交流会も何度か行いましたが、参加してくれる人が日本中にいてくれたことが、とてもうれしかったですね」

「太陽堂を通じて、遠山郷を知ったり好きになっている人が増えている実感がある」という水戸さん

水戸さんはこれからもITを通して、人と人とのつながりを求めていきたいといいます。それは、遠山郷をメジャーにして急激に観光客を増やしていくというものではなく、太陽堂の交流スペースで、ゲストと地域の人たちが交流するような、緩やかで温かいつながりです。