新たな働き方の「ワーケーション」に注目が集まっています。

しかし、ワーケーションを導入する企業が頭を悩ますことの一つに、社内規則の整備が挙げられます。今回は、ワーケーションの適切な制度運用をするために、労務管理の観点から導入時の注意点について解説します。

ワーケーションを導入する際の注意点とは?

ワーケーションとは、会社のオフィスではなく、リゾート地や地方で「Work(仕事)」と「Vacation(休暇)」を行う新たな働き方です。

ワーケーション導入のメリットは、従業員のワークライフバランスを整え、普段とは違う環境でクリエイティビティ(創造性)を養い、多様性のある働き方を取り入れた企業としてアピールできること、などです。

ワーケーションの概要やメリット・事例については、こちらの記事でご確認ください。
ワーケーションとは?「導入企業のメリットや準備」と「宿泊施設に必要な準備」

しかしながら、こういったワーケーションを企業で導入する際には、労務管理や法律の観点から、以下の点に気をつけなければなりません。

①労働時間・勤怠の管理

労働安全衛生法の改正に基づき、2019年4月から従業員の労働時間・勤務状況の把握が必要となりました。
(※管理監督者・裁量労働制適用者も同様)

しかし、ワーケーションの場合、勤務状況について対面で確認することはできないため、労働時間や勤怠の管理が難しくなるでしょう。

②年次有給休暇の取得

ワーケーションは、「仕事」と「休暇」が入り交じった言葉ですが、あくまで働き方の表現であり、勤務することに変わりありません。

基本的には、一日単位で勤務または休暇を決めてもらいます。従業員に、有給休暇を取得しつつ勤務してもらえるわけではない(基本的に勤務日と有給休暇は別日)ため、認識に注意が必要です。

③労災保険の適用

従業員がワーケーション中に、事故・怪我に見舞われた場合、労災保険の適用範囲に気をつけなければなりません。

事故・怪我に遭った時間が、勤務中・プライベート中のいずれかにより、労災保険の適用範囲が決まるためです。「半分、休暇のようなものだから対象外」と安易な判断をすると、労災隠しと捉えられかねません。場合によっては刑法上の責任を問われ、50万円以下の罰金を科されることも。
(※労働安全衛生法120条第5号)

労災保険を適用できなければ、従業員は通常の保険診療を負担し、医療機関を受診することとなるでしょう。

【社会労務士監修】注意点への対策方法

ここまでに挙げた注意点への対策を解説します。
全体を通して、ワーケーションを実施するためには、取得条件・適用範囲などを社内規則でルール化することが重要だと言えます。

①労働時間・勤怠

企業は、従業員の労働時間を把握することを義務付けられています。ワーケーションを導入するためには、社員が会社・オフィスにいなくても、社員の労働時間や勤怠が管理できる仕組み作りが必要になります。

タイムカードやパソコンの使用記録、専用ソフトなどの活用をしながら、通常勤務と同じく、労働時間を把握するようにしましょう。

場合によっては、従業員の自己申告も認められていますが、その真偽の判断だけでなく、従業員に未申告の業務を行わせないよう注意すべきです。

ワーケーションにはフレックスタイム制が適している場合も

一方で、勤怠管理が難しいワーケーションでは、「フレックスタイム制」や「裁量労働制」など、勤務時間に柔軟な勤務スタイルを導入することが適している場合もあります。

特にフレックスタイム制は、2019年4月の法改正に伴い、清算期間の上限が1ヵ月間から3ヵ月間へと延長されました。

清算期間とは、従業員が各勤務日の勤務時間を自由に決められる期間のことです。3ヵ月間という長い期間で、より柔軟な勤務時間を設定できるため、ワーケーションを実施しやすくなるでしょう。

ただし、制度の導入に際して就業規則の改変や労使協定の締結、労働基準監督署への届出などが必要となる場合があります。

②年次有給休暇

企業は、労働基準法で、年10日以上の年次有給休暇を取得する権利のある従業員に対し、5日以上の取得を義務付けられています。

こちらも労働時間・勤怠と同様に、タイムカードやパソコンの使用記録、専用ソフトの活用などをしながら、有給休暇と勤務を同時に行うことがないよう管理しましょう。

ワーケーションには時間単位での有給取得が適している場合も

一方で、ワーケーションを行う際に活用しやすいのが、時間単位での有給取得です。
2010年の法改正では、労使間協定を締結した上で、年間5日間だけ時間単位での取得が認められるようになりました。

例えば、「午前だけ休暇前に残った仕事をし、午後は現地の観光やアクティビティ出かける」といった具合です。自社で時間単位での有給取得ができないか、確認してみるといいでしょう。

③労災保険

一般的に、労災保険は、勤務に関係のある事故・怪我に対して適用されます。適用には、客観的な証明が必要です。

テレワークでも、「プライベート中の事故・怪我ではないか」と考えられれば、適用が難しいケースもあります。ワーケーションでは、なおさらです。

例えば、「ワーケーション滞在中の勤務で、届いた郵便物の開封で指を怪我した」といったケースでは、その郵便物が「仕事関連」か「私的」だったかが判断のポイントとなりえます。
私的な郵便物だった場合は、労災の対象外となります。

つまり、「勤務中」かつ「業務に関係する事故・怪我」の場合のみ、ワーケーション中であっても労災の対象となります。

ワーケーション中の労災認定を社内規則で定めておくと、従業員が労災リスクを理解した上で、ワーケーションを取得できるはずです。

社内規則でルール化した上で運用を

以上、労務・法律に関わるワーケーションの注意点について解説しました。
ワーケーションは、国が定める制度ではないため、企業ごとに社内規則でルールを定め、運用していく必要があります。

一方で、実際の運用では、「ワーケーションの取得しやすさ(社内の雰囲気)」「ワーケーション時の業務連携の取りやすさ」など、そもそもの企業の文化や土壌が大切になるでしょう。

ルールと運用のバランスを取りつつ、ワーケーションを導入してみてください。

監修者:渡邊 敦子
社会保険労務士法人C・プレイス 代表社員
一部上場企業から従業員1名の小規模企業まで様々な規模の企業の労務相談、就業規則の作成を中心に活動中。企業ステージに合った対応をするように注意しています。