取引の決済に使われる「約束手形」について、2021年2月、経済産業省は2026年をめどに利用廃止を目指す方針を示しました。建設業界や製造業界などを中心に幅広く利用されてきた決済方法ですが、なぜ廃止を目指すのでしょうか?基本的な仕組みや小切手との違い、メリットやデメリットについて紹介します。

そもそも約束手形とは?

そもそも「約束手形」とは、取引相手への支払いを指定した期日に行うことを約束する証書のこと。現金の代わりに用いられる「有価証券」の一つです。その歴史は古く、手形を使った取引は江戸時代には既に行われていたと言われ、現在の約束手形は明治時代に制度化が進められました。

約束手形の仕組み

約束手形による決済では、金融機関が発行する「統一手形用紙」に、支払いの期日や金額などの必要事項を記載・押印し、現金の代わりに取引相手へ渡します。これを手形の振り出しといい、受取人は支払い期日が来た約束手形を金融機関へ取り立てに出すことで、記載された額の現金に換えることができるという仕組みです。

約束手形を決済に用いるには、引き落としや入金業務を金融機関に代行してもらうための専用口座である「当座預金」を開設していなければなりません。そのため約束手形は、金融機関によって信用を認められた企業(個人事業主も含む)しか活用することができない決済手段と言えます。

約束手形のメリットと特徴とは?

それでは決済に約束手形が使われるのには、どのような目的があるのでしょうか?

最大の目的は支払いの猶予

まず最大のメリットは、約束手形を振り出した側が支払いを先延ばしできる点です。約束手形による決済は、将来的な現金の支払いを「約束」する形で行われます。支払い額は指定した期日までに当座預金口座へ用意すればいいため、決済時点では手元に現金がない場合でも取引を行うことが可能。資金調達の猶予期間を設けることで、資金繰りの負担を軽減することができます。

なお、手形を振り出した日から支払い期日までの期間は「手形サイト」と呼ばれ、原則的には制限がかけられていません。そのため受取人が納得さえすれば、1年後といった長期の期日を指定することも可能です。ただし中小企業の保護を目的とした「下請法(下請代金支払遅延防止法)」では、可能な限り短い期間で下請事業者に対する支払いを行うよう規定されています。現在の基準は最大120日(繊維業は90日)ですが、政府によって2024年をめどに60日以内に短縮することも求められています。

自由に「裏書譲渡」が可能

また約束手形は、裏面に自身や譲渡先の情報などを記載・押印をすれば、受取人が第三者へ自由に譲渡できるのも大きな特徴です。これは「裏書譲渡」と呼ばれ、受取人が別の取引先に対する代金決済を行う際に用いられます。

期日の来た手形は、最終的に譲渡された者が金融機関に提示することで、現金化することができます。期日までに多くの企業を転々とするケースもあり、実際に約束手形の裏面には、裏書きが複数できるスペースが用意されています。

受取人は「手形の売却(割引)」も可能

さらに約束手形は、支払い期日が来る前に金融機関に売却することも可能です。支払い期日までの日数などに応じて割引料が差し引かれるため、「手形の売却(割引)」と呼ばれ、受取人の資金繰りが悪化した場合など、期日前に手形を現金化する手段として活用されます。

小切手や為替手形との違いは?

約束手形とよく似た決済手段に、「小切手」や「為替手形」があります。いずれも現金の代わりに使用され、金融機関を経由して支払いが行われるのは共通ですが、一体何が違うのでしょうか?

小切手はすぐに換金可能

そもそも小切手は、現金の持ち運びや支払いの事務的な負担を軽減するために使用される有価証券です。約束手形とは違って支払いに猶予を与えることを目的としていないので、受け取った時点ですぐに現金化することが可能です。

そのため決済に用いる際は、その時点で実際の支払いに必要な金額を当座預金に預けておく必要があります。

為替手形は三者間取引に使用

もう一方の為替手形は、三者間の取引を一括で決済するために利用される手形です。例えばA社からの支払いを受ける際、その代金を相手に依頼して、本来は自分が支払わなければならない別のB社への支払いに回してもらうことで、三者間の支払いを一度に済ませることができます。

つまり手形を振り出した人とは別の第三者に、受取人への支払いをしてもらうために用いられるため、二者間で利用される約束手形とは性質が異なります。

約束手形のデメリットと廃止の理由とは?

このように、主に支払い側の資金繰りの負担を軽減するため用いられてきた約束手形ですが、政府は2026年をめどに利用を廃止するよう、業界へ呼びかけることとなりました。これには一体どのような背景があるのでしょうか?

①受取人の負担軽減

最も大きな理由には、受取人の負担軽減が挙げられています。当然ながら約束手形の受取人は、期日が来るまで代金の支払いを受けることができません。しかしその間に利子が発生するわけでもなく、手形を売却した場合の割引料も自己負担しているケースが多く見受けられます。

さらに手形を振り出した相手が、期日になっても支払い金額を用意することができなかった場合、約束手形は現金化することができません。この状態を「不渡り」といい、不渡手形は最悪の場合、回収することのできない不良債権となってしまう恐れもあります。

ちなみに支払額が用意できず、不渡りを半年間で2回発生させた企業は、すべての金融機関との取り引きが2年間停止されます。事業の継続が実質的に困難となるため、手形を振り出した側にとっても大きなデメリットとなります。

②リスクやコストの軽減

もう一つの理由は、リスクやコストの軽減です。約束手形には紙が用いられているため、印刷や郵送などにコストがかかるほか、災害時に紛失の恐れがあるなど、保管自体にもリスクが伴います。一方で近年では、インターネットバンキングなどの普及により、決済手段の電子化や多様化が進み、約束手形の流通量は大きく減少しています。

こうした状況を踏まえ、政府はその長い歴史に終止符を打つ方針を固めました。金融業界をはじめ、それぞれの業界ごとに自主的な行動計画を策定することも呼びかけており、日本の商習慣が大きく変化しようとしています。

代替手段の利便性向上に期待

今後は、手形を電子化した「電子記録債権」や「現金による振り込み」といった代替手段への移行が推し進められていくことになります。特に電子手形については、これまで割高だった手数料の低減やその利便性の向上も期待されていますので、ぜひ注目してみてはいかがでしょうか。