会社に所属せず、個人で仕事をしている人の肩書きには、「個人事業主」や「フリーランス」といった言葉が使われます。一見、同じようにも思える呼び名ですが、明確な違いがあるのをご存知でしょうか?

区別のポイントとなる「開業届」の提出方法や、そのメリットについて紹介します。

個人事業主とフリーランスの定義

そもそも個人事業主とフリーランスは、働き方自体に大きな差があるわけではありません。しかし言葉の意味合いが異なります。

フリーランスは働き方の一つ

まずフリーランスは、会社や組織とは雇用契約を結ばず、独立して業務を請け負う「働き方」を指す言葉です。単発のタスクやプロジェクト、または一定期間ごとに契約を結び、クライアントと合意した条件に添って業務を行う方法を意味します。

このため広義においては、副業で働く人や個人事業主、法人経営者も含まれる場合があるのがフリーランスです。

個人事業主は税法上の区分

一方、個人事業主は、法人化せず個人で独立して事業を行っている人のことで、税法上の所得区分を意味する言葉です。そのため個人事業主になるには、税務署に「開業届」を提出しなければなりません。つまりフリーランスで働く人のうち、開業届を出した人が個人事業主になります。

開業届を出した個人事業主が従業員を雇用している場合でも、法人格を持たずに事業を営んでいるのであれば、個人事業主です。

「自営業」という言葉もありますが、これは税制とは関係のない社会的な呼び名です。自分で事業を営む人全般を指すため、法人を設立している人も自営業者と呼ばれる場合があります。

開業届とは

そもそも開業届は、正式には「個人事業の開業・廃業等届出書」といい、原則として事業開始日から1ヶ月以内に提出することになっています。

しかし罰則の規定はなく、出さなくてもフリーランスとして働くことが可能。確定申告さえ行えば、税法上の問題も特にはありません。1ヶ月以上経ってからでも提出できるので、開業届を出すかどうかは本人次第です。現在の新型コロナウイルスの影響に対する「持続化給付金」も、条件を満たせば開業届なしで申請することができます。

ただし個人事業主にしか受けられないメリットも存在します。

個人事業主になるメリット

個人事業主になるメリットには、大きく分けて以下の3つが挙げられます。

  • 青色申告による節税効果
  • 小規模企業共済に加盟できる
  • 事業用に屋号で銀行口座を持てる

青色申告による節税効果

一番の利点として考えられるのが、節税効果です。フリーランスの仕事で得た収入は、毎年自分で確定申告を行わなければなりません。申告の方法には「白色申告」と「青色申告」がありますが、個人事業主の場合、定められた期間内に「青色申告承認申請書」を提出することで青色申告を選択できるようになります。具体的には、次のようなメリットがあります。

  • 最大65万円の特別控除
    白色申告は単式簿記で記帳が比較的簡単ですが、税額の控除がありません。しかし青色申告では、複式簿記で記帳すると65万円の特別控除を受けることができます。38万円の基礎控除と合わせると103万円までの所得が非課税に!納税額に大きな影響を与えます。
  • 赤字を3年間繰り越すことができる
    事業で赤字を出した場合、それを3年間繰越することが可能です。開業の年など必要経費が多い場合は、翌年度以降の収益から3年間、赤字分を差し引いて税金を計算することができます。
  • 家族への給与を必要経費にできる
    家族に事業を手伝ってもらう場合、配偶者や子どもを「青色申告専従者」にしておけば、その給与を経費として計上することができます。そのためには開業届とは別に「青色事業専従者給与に関する届出・変更届出書」の提出も必要です。
  • 少額減価償却資産の特例が利用できる
    事業で利用するために購入した固定資産の一括計上は、本来10万円未満に限定されています。しかし青色申告では30万円未満の固定資産まで、一括で経費に計上することが可能。節税に役立てることができます。
    ※ただし、試算の合計金額は年間300万円まで。

小規模企業共済に加盟できる

個人事業主になると「小規模企業共済」に加入することができます。小規模企業共済とは、個人事業主や会社役員、経営者などを対象とした、積み立て式の退職金制度です。

掛金が全額所得控除の対象となるだけでなく、解約手当金を受け取る際も退職所得控除が受けられるなど、節税に大きな効果があります。また契約者は低金利の貸付制度を利用することも可能です。ただし加入期間20年未満で任意解約した場合には、元本割れのリスクもあるので注意しましょう。

事業用に屋号で銀行口座を持てる

開業届には屋号を記入する欄もあるため、屋号名で銀行口座が開設できるようになります。これによって確定申告での経費計算を分かりやすくすることが可能です。

また事業主として取引をする際、個人名ではなく屋号を使うことで、相手からの社会的な信頼性を高めることができます。屋号の取得は必須ではありませんが、大手企業との仕事なども考慮し、登録しておくといいでしょう。

開業届の出し方

それでは個人事業主になるために必要な開業届は、どのように提出するのでしょうか。

開業届の記入項目

まず開業届は、最寄りの税務署もしくは国税庁のホームページから入手することが可能です。

記入する項目は以下の通りです。

開業届の各記入項目の解説

①納税地

一般的には、住んでいる場所である「住所地」の住所が該当します。

②上記以外の住所地・事業所等

納税地以外にお店や事務所などがある場合は、ここに記入します。

③氏名・生年月日

事業主の名前と誕生日を記入します。

④個人番号

マイナンバーを記入します。

⑤職業

開業する職業を記入します。複数にわたる場合は、併記してください。

⑥屋号

開業するお店や事業の名称がある場合は、ここに記入します。なお屋号は後から提出・変更することも可能です。

⑦税務署長

納税地の所轄税務署を記入します。所轄税務署は国税庁HPから調べることが可能です。

⑧提出日

開業届を提出もしくは発送する日付を記入します。

⑨届出の区分

「開業」を選択。事業を引き継いだ場合には、前の事業主の住所と氏名も記入します。

⑩所得の種類

一般的な仕事やお店の開業であれば「事業(農業)所得」を選択。ただし不動産賃貸業の場合は「不動産所得」を、また山林による所得であれば「山林所得」選択します。

⑪開業・廃業等日

開業日に決まったルールはないため、お店のオープン日や開業届の提出日などを記入します。

⑫事業所等を新増設、移転、廃止した場合/廃業の事由が法人の設立に伴うものである場合

開業の場合は、空欄でOKです。

⑬開業・廃業に伴う届出書の提出の有無

青色申告承認申請書を提出する場合は、「青色申告承認申請書」又は「青色申告の取りやめ届出書」の「有」を選択します。

申請書には提出期限があるので注意しましょう。開業日が1月1日〜1月15日の場合は、3月15日までに。1月16日以降の場合は、開業日から2ヶ月以内に提出しないと、その年は白色申告になってしまうので気を付けてください。

消費税に関する「課税事業者選択届出書」は、特に理由がなければ「無」を選択します。ただし初期投資額が大きい場合や輸出業の場合は、消費税の還付を受けられるケースもあるので、事前に税理士に相談するといいでしょう。

⑭事業の概要

どのような業態で、どのように収入を得ているか、具体的な事業の内容を記入します。

⑮給与等の支払の状況

従業員を雇用する場合に記入します。「従事員数」には、雇用する相手が配偶者や親、子であれば「専従者」欄に、それ以外であれば「使用人」欄にその人数を記入。「給与の定め方」には、「日給」や「月給」などを記入します。

「税額の有無」は、その区分全員の月給が約8万円までなら「無」を、一人でも約8万円を超えていたら「有」を選択します。仮に「無」としておいて、結果的に税額が発生したとしても問題はありません。

⑯源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書の提出の有無

源泉徴収は、従業員の給与や税理士などへの報酬から、事業主が税金(所得税)を差し引いて支払い、本人に代わって国に納付する制度のことです。通常、給料や報酬を支払った月の翌月10日までに納付しなければなりませんが、一定の要件を満たすと、年2回まとめて納付する特例制度の利用も可能です。

特例を承認してもらうための申請書を税務署に提出する場合は、この欄の「有」を選択し、給与の支払を開始する日を記入します。開始日が未定の場合は、空白でもOKです。

⑰その他参考事項

空白で問題ありません。

⑱関与税理士

顧問の税理士がいる場合は、税理士の氏名と電話番号を記入します。いなければ記入は不要です。

開業届提出時の注意

最後に、作成した開業届を税務署へ持参もしくは郵送します。

提出に当たっては、本人確認書類の提示、または写しの添付が必要なので、事前に準備しておきましょう。マイナンバーカード(写しの場合は両面をコピー)があれば1枚ですみますが、ない場合は通知カードや住民票の写しなどマイナンバーが確認できる書類に加え、運転免許証やパスポートなどの身元確認書類が必要なので注意してください。

開業届は提出用と控え用を1部ずつ用意し、氏名欄に押印します。税務署の窓口に提出する場合は、提出用と控えの2部を本人確認書類とともに提示。郵送の場合は、それらを封筒の中に入れ、自分宛ての返信用封筒に切手を貼って同封します。手数料はかかりません。一週間程度で税務署から、受領印が押印された開業届の控えが送られてきます。

開業届の控えは、個人事業主になった証です。提示が求められる場面もあるので、必ず手元に保管しておきましょう。

提出のタイミングにも注意!

開業届を提出するタイミングを配慮したほうがいい場合もあります。

扶養から外れる可能性がある

開業届を提出することで、扶養から外れる可能性があります。それまで配偶者や親族の扶養に入っていたのであれば、以後の保険料や税金などに関わるので、事前に健康保険組合の決まりを確認したり、家族と相談しておいたほうがいいでしょう。

開業すると失業保険はもらえない

失業保険は、転職活動をしている人が、次の仕事が見つかるまでのつなぎとして受給できるものです。そのため、開業届を提出して仕事を始めると、失業手当はもらえなくなります。独立するか再就職するか迷っていたり、収入の目処が立っていないような場合は、失業手当をもらってから、後追いで開業することを考えたほうが得策です。

開業届の提出はメリットがたくさん!

個人でビジネスをする際、開業届の提出は必須ではありませんが、提出をすることで得られるメリットが多いと言えそうです。自分のビジネススタイルと照らし合わせて、個人事業主になることを検討してみてはいかがでしょうか。

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