食中毒防止を目的としたHACCP対応。2021年6月から、違反すると罰則規定が適用されると予測されています。まずはマニュアルの作成が急務ですが、きちんと実行していくためには、スタッフ全員の危機意識の共有が必要です。

食中毒を防ぐために、経営者が食中毒についてしっかり知識を得ることはもちろん、日々一緒に働くスタッフたちの意識を改善することも重要なポイントです。そのために、経営者はどんなことができるのでしょうか。

前回に引き続き、外食繁盛サポーターとして、飲食店の開業サポートなどを行なっている中島孝治さんに実際に飲食店ができる食中毒対策についてお話を伺いました。

根底にあるのは「減らない食中毒発生件数」

前回もお伝えしたように、HACCPの基準は飲食店を運営する方にとっては、大変厳しく感じられると思います。先に欧米がHACCP対応を義務化し、それに対応する形で、日本も世界基準に準ずるよう輸出用食品から先にHACCP対応をするようになりました。

今回、飲食店に取り入れなければならないのは、「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」というものです。「海外に輸出する食品はともかく、国内の飲食店まで海外の基準に合わせなくても良いじゃないか」と思うかも知れません。しかしこのぐらい厳しくしないと改善されないものがあるのです。それは食中毒の発生件数です。

飲食店での食中毒患者は減っていない

過去20年間の食中毒患者数は、約4分の1まで減少しているにもかかわらず、飲食店での発生件数はこの20年間、一向に減っていません。毎年500件弱~700件強の飲食店で食中毒が発生しています。(2019年は580店舗)。2000年頃には、食中毒の飲食店発生率は全体の約22%でしたが、ここ数年では飲食店発生率が全体の約55%となり、食中毒の半分以上が飲食店で起きているということになります。

厚生労働省|食中毒統計資料

当然、これらの食中毒が発生した店は営業停止、もしくは営業禁止になっています。これはお店にとって経営上大きな問題です。

厚生労働省の食中毒統計資料より「食中毒事件件数」の推移

厚生労働省の食中毒統計資料より「食中毒患者数」の推移

今までは食中毒を出してしまったら、患者数や食中毒の種類、保健所調査による衛生管理意識・環境などを踏まえ、2~3日の営業停止処分(厳しい処分では営業禁止)となっていました。しかし、2021年6月からは、保健所の食中毒調査時に「HACCPに基づく衛生管理計画書と検収書の提出」が求められます。その際に、義務化されていることがお店でなされていなければ、罰則規定(禁固3年以下、または個人店罰金300万円以下、企業罰金1億円以下)が適用される可能性が非常に高いと思われます。

経営者自身が食中毒について知るべし

衛生管理の手順マニュアル(計画表)を作れば、当然スタッフの手間は増えます。面倒だからと勝手に手順を省略したり、いいかげんなやり方で形だけ実行するようにならないために、経営者はスタッフの教育をする必要があります。なぜそれをやらないといけないのかをきちんと理解してもらわずに、ただ厳しく「やれやれ」と言うだけでは、マニュアルは形骸化していきます。そうならないためにも、まずは経営者自身が食中毒について勉強し、スタッフに「なぜそれをしなければいけないのか」説明しなければなりません。

飲食店で発生する食中毒は、どの工程に大きな原因があるか知っていますか?食中毒を起こす原因菌は、季節によって異なりますが、それをいくつ言えますか?

経営者や、料理人であってもこうした質問に答えられない方はたくさんいると思います。今まではそれでもなんとかなってきたかも知れませんが、今後は禁固、罰金という大きな刑罰を科されるおそれがあります。大事なお店を失うことにもなりかねません。それをよく肝に銘じる必要があります。これはスタッフがやったことであっても結果は同じです。だからこそ、経営者自身の勉強と、スタッフへの教育が大事なのです。

ちなみに飲食店で発生する食中毒の大きな原因はどこにあるか、答えの1つは仕込み過程です。素材を調理してすぐ食べるなら、あまり食中毒は発生しません。しかし、仕込みをしたものは、保存されている間に菌が繁殖し、食中毒を起こす可能性があるのです。

また、ノロウイルスのようなものは、お店の外部から人がウイルスを持ってくるケースが多く、私はスタッフ・業者・お客様のうち、お客様が持ち込むことが多いと思っています。

このような菌、ウイルスの性質や感染方法を知っていれば、食中毒の予防は難しくありません。今後、各地でHACCP対応のためのセミナーなどが開催されると思います。自ら学び、スタッフの意識を変えて、大事なお店を守っていきましょう。

菌もウイルスも性質を知らなければ対処できない

今年は新型コロナウイルスの影響で、手洗い・うがい、マスクの重要さを世界中の人が身にしみて理解したと思います。しかし、新型コロナウイルスがどういう性質のものかがわからないと、感染を防ぐのは難しいですよね。

同じように、食中毒もどういう菌(またはウイルス)で発生するのか、その菌・ウイルスはどんな温度帯で活発に活動し、何℃ぐらいで死滅するのか、どんな薬品に弱いのか、などを知らなければ、防ぎようがありません。アルコール消毒はよく知られていますが、アルコールで死なない菌もいます。例えばノロウイルスなどの場合は、アルコールが効かず、次亜塩素酸消毒が有効となります。

菌・ウイルスによって活動時期が違うのでその時期に合わせた対処法が必要ですが、季節によって対処法を変えている飲食店が、はたしてどのくらいあるでしょうか。

スタッフへの動機づけは徹底的に!

「なぜ今、このような対処が必要なのか?」がわかれば、そうすることが当たり前になります。「この季節はこういう菌が食中毒の原因になる。その菌はこういうしくみで増えていき、こういう予防策に弱い」といったことを知っていれば、マニュアルに書かれていることを守らなかったらどういうことになるのかが、具体的に理解できます。

スタッフにただ「マニュアル通りにやれ」というだけでなく、こうした「なにゆえそれをやるのか」という動機づけをしっかりすれば、スタッフ自らが「それをするのが当たり前」「やらないと怖い」と感じるようになっていきます。

そしてそうした動機づけは一回で終わりではなく、定期的に行って衛生管理に対する注意を刺激し、マニュアルの形骸化を防ぎましょう。衛生管理は全員で取り組まなければ、万全を期することは出来ません。スタッフの衛生管理に対するモチベーションアップも、お店を守るために必要な仕事の一つです。

<監修>
中島孝治(外食繁盛サポーター)
1961年鹿児島県生まれ。2001年、(株)ナレッジ・ネットワークスを立ち上げ、飲食店専門のシステム開発に従事する。2003年3月、千葉の南行徳で「手羽矢南行徳店」を開業。オープンから半年間、店長任せで倒産寸前まで陥ったが、その後は自ら現場に立ち、計数管理を活用しながらメニューや接客改善に努め、33カ月連続で前年同月売上100%以上を達成。2019年9月に飲食店を卒業し、外食向けeラーニング普及とコンサルティングに専念。著書に『ラストオーダーは稼ぎ時』がある。