飲食店経営者、スタッフのみなさんは食中毒を防ぐために日々、努力していることでしょう。しかし、スタッフそれぞれのやり方任せになっていませんか?

2020年6月からHACCPに沿った衛生管理が義務化されています。また、猶予期間後の2021年6月からは、違反すると罰則が適用されると予測されます。このHACCPを大変なものと恐れるばかりでなく、しっかり準じることが、実際に食中毒を防ぐカギになりそうです。

今回は、外食繁盛サポーターとして、飲食店の開業サポートなどを行なっている中島孝治さんに実際に飲食店ができる食中毒対策についてお話を伺いました。

1度の食中毒がお店の命取りに

食中毒といえば暑い時期のものと思われがちですが、実際は6月をピークとして食中毒は1年中起こります

それは、それぞれの季節によって、食中毒を起こす菌が違うからです。気温や湿度の違いで、活動する菌が異なり、菌の種類によって増殖の仕方も違います。そうした菌について、飲食店経営者が漫然とかまえていてはいけません。「とりあえずアルコール消毒液使っているから」という程度では、食中毒を防ぐことはできないのです。

「今まで大丈夫だったから、これからもこのままで大丈夫」というような、甘い認識は捨てましょう。過去に食中毒を起こして、営業停止や営業禁止になった店の経営者も、おそらく同じように思っていたはずです。

1度でも食中毒を起こせば「あの店は食中毒を出した店」という悪評が、ネットを介してあっという間に広く知れ渡りますし、しかもそれはデジタルタトゥーとなってほとんど永久に尾を引きます。よく内容を確認して、きちんと準備を進めましょう。HACCPに沿った衛生管理ができていれば、自ずと食中毒を防げる店作りができますよ。

衛生管理の明文化が食中毒予防のポイント

当たり前のことですが、スタッフは厨房に入る前に手を洗います。しかし、その洗い方は人それぞれ、まちまちになっていませんか?殺菌用のソープを使って何分間洗えば、食中毒予防になるのか知っていますか?手洗い1つ取っても、ただ「洗いました」では衛生管理になっていないのです。

こうした小さいことであっても、個人の裁量任せになっていると、食中毒の危険は増大します。それを予防するには衛生管理のマニュアル(計画表)を作り、スタッフ全員が共有すること。さらにはそのマニュアル通り衛生管理がされているという記録を作ることが不可欠です。

HACCP対応は大きく分けて2分野

HACCPに対応するマニュアルは大きく分けて2つの分野で必要です。1つ目は「一般衛生管理」、2つ目は「調理工程」です。

ナショナルチェーン(全国規模で展開しているチェーン店)の外食産業では、「一般衛生管理」のマニュアル・計画書・管理記録はすでに整備されています。「調理工程」の計画書・管理記録も、基本的に作成するのは本部のため、各店舗での負担は大きくないと思われます。

しかし、個人営業の飲食店さんの多くはこうしたマニュアルを作っていないと思います。このマニュアル・計画書・管理記録については、厚生労働省のサンプルがあるので、ダウンロードできます。 参考になさってご自分のお店の実情に合ったものを作成しましょう。

厚生労働省|HACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書

マニュアル(計画書)の作成と留意点

清掃に関しては、ある程度どんなお店でも共通していますので、それほど難しくないと思いますが、2つ目の「調理工程」すなわち仕込みと調理はそれぞれのお店や、もっと言えば同じお店の中でも料理人一人ひとりの経験や勘で行っていることが多いので、マニュアル化(計画書の作成)には非常に苦労すると思います。

例えば「唐揚げ」の調理工程について、「揚げ油の温度は何℃」「1回に鍋に入れる量は何グラムまで」「何分揚げる」「揚げ終わった肉に火が通っているかの確認方法」……と、ここまでマニュアル化しなければならないと思ってください。このマニュアル作成は相当な手間がかかりますので、罰則が適用される来年の6月に間に合わせるには、今から少しずつ着手しなければ間に合いません。

個人経営の店舗は「仕込み」のマニュアル化が必須

そして、個人経営の店舗(個店)がチェーン店と違う大きなポイントがあります。チェーン店には、仕込み工程があまりないことが多いですが、個店にはしっかり仕込み工程があります。

食中毒を防ぐには、この仕込み工程も重要なポイントです。つまり、本当に食中毒を防ぐには、調理工程のマニュアルはもちろん、仕込み工程のマニュアルも必要だと考えます。

また、計量や検温のために、温度計やタイマーを設置する必要も生じます。仕入れや仕込みをしたものを保管しておく冷蔵庫・冷凍庫内の温度も記録しなければならなくなりますので、こうした備品の準備も進めていきましょう。

「2021年6月直前から準備」では遅い

絶対に忘れないでいただきたいのは、2021年6月から罰則適用の可能性が高いからといって、その6月から記録を始めるのでは遅い、ということです。施行はすでに始まっていますから、せめて過去3カ月、つまり2021年3月にはマニュアルが完成していて、それに沿って実行していますという記録をつけ始めなければならないのです。今はそのマニュアルを作るための猶予期間であり、「まだ罰則が適用されないから関係ない」ではないのです。

しっかりHACCPに準じた対応をして、そして何より、お店から食中毒をなくしていきましょう。

<監修>
中島孝治(外食繁盛サポーター)
1961年鹿児島県生まれ。2001年、(株)ナレッジ・ネットワークスを立ち上げ、飲食店専門のシステム開発に従事する。2003年3月、千葉の南行徳で「手羽矢南行徳店」を開業。オープンから半年間、店長任せで倒産寸前まで陥ったが、その後は自ら現場に立ち、計数管理を活用しながらメニューや接客改善に努め、33カ月連続で前年同月2019年9月に飲食店を卒業し、外食向けeラーニング普及とコンサルティングに専念。著書に『ラストオーダーは稼ぎ時』がある。