政府の提唱している「働き方改革」では、企業における従業員の副業を推進しています。少子高齢化や人口減少に伴う労働力人口の低下を補うため、副業を含む多様な働き方が社会では求められるようになっているからです。

国内企業における副業導入の現状や、副業禁止の状況、メリット・デメリット、事例について解説します。

企業における副業の浸透率や禁止について

まず、国内での副業導入の現状について解説します。

企業はどれくらい副業を認めている?

株式会社リクルートキャリアが2018年9月に行った「兼業・副業に対する企業の意識調査(2018)」によると、兼業・副業を容認、推進している企業は全体の約3割であることが分かりました。2017年の同調査に比べ、5.9ポイントの上昇となっています。

残りの7割の企業が兼業・副業を禁止しています。その一番の理由は、「社員の長時間労働・過重労働を助長するため」(全体の44.8%)でした。

一方で、他社を本業として自社に兼業・副業を希望する人の受け入れについては、約4割の企業が「受け入れ済もしくは検討中」と兼業や副業に対して前向きな回答をしています。企業における副業の浸透はこれからと言えますが、少しずつ広まりつつあるようです。

従業員の副業は禁止できる?

そもそも副業の定義は、本業以外の仕事のこと。本業に勤めながら、アルバイトや個人事業(業務委託や起業など)を行うことです。

副業の禁止は、法律上、原則認められていません。労働基準法や民法は、副業を制限する条項を設けておらず、原則会社側は就業規則で副業を禁じることはできません。つまり、会社側は雇用契約で決まっている勤務時間外の従業員の行動を制限することはできないのです。従業員は法律上、副業を行っても問題はありません。

ただし、厚生労働省が2017年12月に公表した「モデル就業規則」では、労働者の副業・兼業について、下記の通り定めています。各企業で定める「就業規則」にこれらの内容を盛り込み、従業員の同意が得られると法的拘束力も生まれます。

以下、モデル就業規則より引用

第14章 副業・兼業
第68条 労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。
2 労働者は、前項の業務に従事するにあたっては、事前に、会社に所定の届出を行うものとする。
3 第1項の業務に従事することにより、次の各号のいずれかに該当する場合には、会社は、これを禁止又は制限することができる。
① 労務提供上の支障がある場合
② 企業秘密が漏洩する場合
③ 会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
④ 競業により、企業の利益を害する場合

副業や兼業を禁止・制限できる条件である①~④の項目について、それぞれを解説します。

①労務提供上の支障がある場合

副業をすることで、疲労が溜まり、業務効率が低下するなど、本業に支障をきたす場合を指します。

副業をすることで、本業に支障をきたしては本末転倒です。遅刻や居眠り、業務効率低下が見受けられた場合には、副業を禁止できます。

③ 会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合

副業の内容が、会社の信用を損なう恐れがある場合などです。

特に一部上場企業では、社員の副業を認める事によって、株主を含むステークホルダーに影響を及ぼすリスクが高まる場合があります。万が一、副業でトラブルに見舞われた場合に、取り返しのつかない事態にも発展しかねません。企業秩序違反行為として、「口頭で注意される」や「始末書の提出を求められる」といった軽い制裁から、「論旨解雇」や「懲戒処分」を科すこともできると考えられています。
※論旨解雇とは、会社と従業員が話し合い、両者が納得した上で解雇を受け入れてもらうという懲戒処分のこと。

② 企業秘密が漏洩する場合 及び ④ 競業により、企業の利益を害する場合

本業と副業が競業関係にある場合などです。

本業で知り得た取引先やノウハウ、技術に関する情報を、競業関係にある副業に活かすことは禁じられています。こちらも同様に企業秩序違反行為として制裁を受けるかもしれません。

しかし、副業を全面的に禁止すると、従業員満足度にも影響を及ぼす可能性もあります。副業を禁止するなら、従業員が納得できる理由を提示しましょう。

従業員が副業をするメリット・デメリットは?

会社側にとって、従業員が副業をするとどのようなメリット・デメリットがあるのか解説します。

従業員が副業をするメリット

従業員の副業は、企業に相乗効果を生み出す可能性があります。

副業で得たスキルや知識、経験から人材的に成長する

他業界の副業であっても、そこで得られるスキルや知識、経験は、本業に活かすことができます。実際、目薬などでおなじみのロート製薬の社員が副業をしたケースでは、普段の仕事で農業や食品関連に携わっていましたが、クラフトビール造りを行い、営業や経理を経験。「ロートでも違う部署の考えを理解できるようになった」とコメントしています。

普段携わらない業務を経験することにより、社内業務に活かし、人材的な成長を見込めるでしょう。

人材の確保・定着につながる

人材不足の深刻な業界において、企業の従業員満足度は、従業員の定着率に影響を与えます。副業禁止を良く思わない従業員が、離職してしまう恐れも。また、副業を認めることで「柔軟性のある企業」というイメージを従業員だけでなく、求職者や社会に対してもアピールできます。

従業員が主体的に働ける

学生時代に「部活動に力を入れると、自然と学業にも身が入り成績が伸びた」という経験をお持ちではないでしょうか。同じように空いた時間で副業をするという挑戦が、本業への活力につながることもあります。副業と本業を両立させるために、業務効率の向上について考え、改善することにもなるでしょう。平日の夜間や土・日を余暇だけにあてず、自ら成長の機会を作ることは企業にとってもメリットといえます。

「副業をするから、本業の業務効率が下がる」ではなく、「副業も本業も上手くいく」といった相乗効果を生み出す可能性もあるでしょう。

従業員が副業をするデメリット

従業員が副業をする場合の会社側のデメリットについても解説します。

業務効率の低下を招く

平日の夜間や土日で、休む暇なく副業にも時間を使うと、疲れが溜って業務効率を落とすかもしれません。場合によっては、体調を崩して勤務自体できない恐れもあります。

社会信用を失う

従業員の副業で、機密情報の流出リスクを企業側も負うことになります。万が一の際には、従業員一人だけで責任を取れず、企業全体の社会的信用の失墜を招く可能性もあるでしょう。株主や下請け、従業員、顧客といったステークホルダーに影響を与えるかもしれません。

副業を導入した企業の事例

実際に副業を導入した企業の事例について解説します。

ロート製薬株式会社

創業から100年以上の歴史を持つロート製薬株式会社は、正社員の副業を解禁しています。その名も「社外チャレンジワーク制度」。2016年2月から始まった制度です。一つの会社では個人の成長に限りがあるとして、副業制度を導入しています。

対象となる従業員は、勤続3年以上の正社員。本人が希望を出すと、情報漏洩や本業への支障、健康面といったリスクをチェックし、本人の所属部署の上司と相談して、最終的な判断をします。副業の内容は、薬剤師から大学のキャリアセンター、クラフトビールの製造とさまざまです。

同社の山田邦雄会長は、2018年4月に「副業を受け入れない会社は発展しない」とも断言しており、多様性のある働き方を認めているのがロート製薬株式会社といえます。

新生銀行

新生銀行は、2018年4月に従業員を対象に副業制度を開始し、同年11月にはグループ会社も含めた全社員が対象となりました。勤続年数に制限はなく、新卒者から定年後雇用の社員でも副業を行えます。

金融機関における副業制度の導入で最大の壁となるのは、情報管理の問題です。同社では副業の有無に関わらず「従業員として情報管理を厳格に守るべきだ」として教育を徹底しています。副業を行う社員の自覚を促すために「情報漏洩の禁止」や「競業避止義務」、「利益相反行為の禁止」を規定しています。

また、新生銀行は、副業の解禁で得られるメリットについて、以下を挙げています。

  • 本業以外の興味・スキルを活かすことで、より多様な視点が銀行に還元され、さらなるイノベーションが生まれる
  • 社員の専門知識・スキルが向上する

副業制度を企業の成長に結びつける

企業で副業制度を認めるリスクだけでなく、得られるメリットについて解説しました。副業制度を導入することで、従業員の成長や職場への満足度、モチベーションアップにつながり、本業に還元してくれるかもしれません。リスクヘッジを踏まえた上で、副業制度の導入を検討してみてはいかがでしょうか。