会社経営を続ける上で、いずれは考えなければならないのが、後継ぎ・後継者の問題です。しかし少子高齢化や人手不足が深刻化する近年では、中小企業の後継者不足が大きな課題になっています。

実際に後継ぎがいないまま、この問題に直面した場合、どうすればいいのでしょうか。どのような選択肢があるのか、ご紹介いたします。

後継者不在による倒産が過去最多を記録

東京商工リサーチによる2020年の最新調査では、後継者不在を理由とした倒産が、10月までの時点で301件を記録。それまで最多であった2015年の279件を大きく上回り、過去最多を更新しています。また、後継者が決まっていない企業の数は、調査対象の57.5%である10万6,573社に上り、事態の深刻さが浮き彫りになっています。

経営者の高齢化が本格化

問題の背景として、まず挙げられるのが、経営者の高齢化です。中小企業庁のレポート「事業承継に関する現状と課題について」によれば、中小企業経営者の年齢分布で、もっとも割合の多い年齢は、1995年から2015年までの20年間で、47歳から66歳まで推移。それに伴い、経営者の平均引退年齢も約70歳まで上昇しています。

単純計算では2021年をめどに引退時期がピークに差しかかる計算となるため、多くの中小企業が、世代交代を迎えることが予想されています。

事業の引継ぎ準備をしている会社は半数以下

しかし、そうした状況にありながら、多くの企業で、引き継ぎ準備が進んでいない現状も明らかとなっています。同レポートにおける事業引き継ぎについてのアンケートで「準備が終わっている」と答えた企業は、70代および80代の経営者でも半数以下という結果に。

廃業を予定している企業も多く、60歳以上の中小企業経営者の過半数、特に個人事業者では約7割が「自分の代で事業をやめるつもり」と回答。そのうち約3割が「子供に継ぐ意思がない」、「子供がいない」、「適当な後継者が見つからない」と、少子化や過疎化、人手不足などの影響による後継者問題を理由に挙げており、国全体で取り組むべき課題となっています。

後継ぎ・後継者が見つからない場合の4つ選択肢

しかし後継ぎがいない場合でも、廃業しか選択肢がないわけではありません。経営者が講じるべき手段としては、次の4つが挙げられます。

  1. 廃業
  2. 事業継承
  3. M&A
  4. 株式公開(IPO)

1. 廃業のメリットとデメリット

まず考えられるのが「廃業」です。

実は、廃業には解散の登記や官報広告、債務整理や清算結了の届出など、起業時以上に複雑な手続きが必要です。手続きには、最短でも2ヵ月以上の時間を要する上、登録免許税や官報広告料などの費用も発生します。清算手続きの結果、資産の売却処分などにより、手元にお金が残る可能性もなくはありませんが、設備解体や在庫処分、建物の原状回復などに、高額の費用がかかってしまうことも多々あり、場合によっては廃業後も債務が残ってしまうこともあるため、注意が必要です。

一方で、廃業することで後継者探しのために無理に経営を続ける必要がなく、計画的に手続きを行えるというメリットもあります。しかし従業員の雇用や取引先のビジネスにも大きな影響を及ぼす廃業は、重大な責任の伴う決断です。後継者問題の選択肢としては、最終手段として考えておいた方がいいでしょう。

2. 事業継承のメリットとデメリット

そこで考えられるのが後継者を探す方法、「事業継承」です。以下のようなパターンで事業を引き継ぐことにより、会社を存続させることができます。

  • 親族に継承
  • 従業員に継承
  • 社外から募集・招聘

親族に継承するメリットは、相続制度を利用できる点です。事業の存続はもちろん、会社の株式や財産を包括的に継承することができます。また、経営権を親族内で維持できるというメリットもあります。

親族以外にも、信頼のおける従業員から後継者を探す方法もあります。もともと事業に関わってきた人材ですので、経営の一貫性を維持しつつ、スムーズに事業を継承することが可能です。

また、社外から後継者を募集、招聘する手法も考えられます。社内の納得を得る必要がありますが、優秀な人材に継承することができれば、さらなる事業の安定、拡大も見込めます。

ただし事業継承には、高いハードルがあることも考慮しておかなければなりません。

事業を継承するということは、権限や役職だけでなく、経営者の抱える金融機関への担保や個人保証も引き継ぐということです。相続や贈与に付随する税金も支払わなければなりませんし、相続制度を利用できない親族以外を後継者とする場合には、経営者からの自社株取得のための資金確保も不可欠です。

また、後継者候補には、数年単位でのきちんとした教育も必要になるなど、さまざまな課題をクリアする必要があります。

3. M&Aのメリットとデメリット

また、第三者へ事業を承継する方法としては、「M&A」も選択肢に挙げられます。株式譲渡や事業譲渡を行うことで、会社そのものや事業の一部を売却し、買い手の経営陣に事業を継承する方法です。

M&Aというと、大企業間で行われる印象があるかもしれませんが、近年では中小企業や個人が関わるケースも増加しており、事業承継の手段の一つとして定着しつつあります。

後継者を広く探すことができるほか、経営状態がよければ好条件で譲渡することもできるため、売却の対価として利益を残すことが可能です。また、自社よりも規模の大きい会社に買い取られるため、さらなる会社の成長や雇用の安定が期待できるといったメリットもあります。

ただし売却価格や従業員の雇用確保など、希望条件を受け入れてくれる買い手を見つけるには、たくさんの時間がかかります。契約も煩雑であるため、ファイナンシャルアドバイザリーや仲介業者といった専門家への相談が不可欠です。

また、それまでの経営には関わりのない人物に事業を任せることになるため、従業員や顧客、取引先などが納得できるだけの丁寧な説明が求められるなど、入念な準備が必要となる点にも注意しておきましょう。

4. 株式公開(IPO)のメリットとデメリット

事業を継続するための選択肢には、株式公開(IPO)によって会社を上場させる方法もあります。

上場することができれば、株式市場で自社株式が流通し、高い換金性を持つようになるため、株式の売却によって創業者利益を得ることができます。事業を引き継ぐための資金を確保することができるのはもちろん、後継人材の確保がしやすくなるというメリットがあります。

しかし上場には、非常に厳しい審査を乗り越えなければなりません。日本には約400万社の企業がありますが、そのうち上場企業の割合は0.1%にも満たず、中小企業にとっては、あまり現実的とは言い難いのが現状です。

後継ぎ問題で困らないためには、早めの準備・相談が重要!

このように選択肢には、それぞれ一長一短ありますが、いずれの場合でも十分な準備期間を設けて取り組むことが重要です。一般的に後継者問題の準備に取りかかるべき目安は60歳と言われており、後継者の育成にも3年以上はかかるとされています。十分な時間が取れるよう、早めに準備を始めるようにしましょう。

また、後継者問題について外部への相談を一切しないまま廃業してしまう会社も多く見受けられるようですが、顧問の公認会計士や税理士、金融機関といった専門家に相談することも非常に有意義とされています。

特に事業承継の場合、後継者(相続や贈与)、税負担、個人保証など、各種専門家ごとに相談できる分野が異なるので注意も必要ですが、国の支援機関である「事業引継ぎ支援センター」や相談窓口「よろず支援拠点」でも相談を受け付けているので、まずはそちらに相談してみるといいでしょう。

事業の引継ぎは「会社の持つ価値を残すこと」

深刻化が進む後継ぎ不足ですが、それまで育ててきた会社や事業には、かけがえのない価値があり、それを残すことは多くの人にとってのメリットにもなりえます。

M&Aにおける買い手の立場から見れば、既にノウハウを確立している事業や優良な中小企業を買い取ることは、新規事業への参入や事業拡大のチャンスとしても魅力的です。この先会社経営をしている人にとっては、後継ぎのいない企業を引き継ぐことが、事業拡大のますます有力な選択肢の一つとなりえるでしょう。

そうした価値や魅力を残すためにも、いざ後継者問題に直面した際は、廃業以外の選択肢も積極的に検討してみることをおすすめします。どのような形で存続できるか? 早めに専門家に相談するといいでしょう。